救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

非主体的農業で北朝鮮の食糧は常に不足
?.水増し統計を発表し続ける理由



1.個人独裁の責任が問われる



北朝鮮が、食糧でも人口でも水増し統計を発表するには理由がある。
最大の理由は、食糧が増産されるような事態になっては、独裁政権が維持できないということである。北朝鮮でも、食糧を画期的に増産する方法はある。それは農業関係者なら誰でも知っていることであろう。自留地を増やす、つまり家族農の余地を急増させればよい。食糧増産を許しては独裁政権が維持できない。食糧不足の状況こそ、人民側からの抵抗を最低限に抑え、人民に対する独裁力が最大になるからである。

農業は、いかなる国でも家族農業が基本である。土を愛し、土を育てることで質の高い食糧が大量に生産される。しかし、北朝鮮ではそれは許されない。全人口の半分に当たる農民に自由をあたえると、民主化運動ひいては革命運動の発生源になりかねない。奴隷的服従で人民を統制するために、北朝鮮では人民に自由を与えず、金氏政権にのみ忠誠を尽くすことを強制する「主体思想」教育による洗脳が2歳児から開始されている。
金正日政権は、親譲りの「主体農業」なるものを継続させた。「主体農業」というのは、農業の一連のプロセスをすべて国が管理し、農民に全く主体性を持たせない非主体的農業のことである。そのため、輪作が必要な畑作物を何十年も連作させたり、地域ごとに生育状況の異なる田畑の田植えや収穫を、軍人や学生、労働者を動員して一斉に行ったりさせてきた。

しかし、彼が命じた「主体農業」を止めて、生産が急増したらどうなるか。「主体農業」が間違っていたことになり、それを命じた金日成・金正日こそが、何十年も人々を苦難の地獄に放置し、かつ300万人を餓死させたということになり、人民の抵抗力が増大する。それでは個人独裁は持たないのである。
従って、農業の生産性を高めるいかなる提案も受け入れることができない。その結果、毎年低い生産量にとどまるのである。そして、毎年の生産量が低い理由は、金正日が命じた「主体農業」ではなく、「アメリカ帝国主義」のせいにしている。

北朝鮮の体制は一党独裁ではなく、個人独裁である。北朝鮮ではわずかな罪も許されないばかりか、罪でなくても罪とされる個人独裁国家であることをよく見るべきである。従って、生産性が上がらないことは分かっていながら、国連機関や外国に食糧支援を依存し続けることが金正日政権以降の、政権存続の基盤となってきた。しかし、大量に食糧と肥料を支援してきた韓国が支援をやめてからは、再び食糧事情が悪化した。経済で「改革開放」ができないのも、個人独裁の罪が明らかになるからである。
ちなみに、金日成が死亡したのは1994年7月で、北朝鮮が国際社会に食糧支援をアピールし始めたのはその直後の1995年である。

◆収奪と抵抗の朝鮮史

朝鮮半島では、食糧の生産量が少なければ、人民がそれなりに対応をしてきた長い歴史がある。
権力者の農民に対する収奪は朝鮮王朝時代も行われていたが、「金氏政権」時代の収奪が最も過酷である。朝鮮王朝時代は、中国式の科挙という試験に合格したエリート知識人が両班(ヤンバン)という特権階級を構成した。そして、地方の代官になって赴任すると、農民から1、2年で一生分の富を収奪したと言われる。
現在は、旧両班に代わり「金氏政権」の幹部たちが、北朝鮮の人民から収奪している。権力者によるこのような収奪に対して、現代の北朝鮮の農民たちは、乾燥不足のまま計測して収穫量を水増しし、土地面積をごまかし、隠し畑を耕している。自留地に柿の木を植え、一番いい種子を翌年用に残し、自留地の作物に肥料を多く与える、などの苦しい対応で生き延びてきた。朝鮮の歴史は、収奪と抵抗の歴史ともいえる。上に政策あれば下に対策ありである。しかしそれにも限度がある。
特権階級の下部に属する中間管理者たちも、現代の北朝鮮で様々な役得で暮らしている。人の人生に関わるあらゆる局面で、北朝鮮の人々は賄賂を使って不足するものを工面し生き延びてきたが、その役得で暮らす中間管理者が異常に多い。北朝鮮で食糧生産や人口が水増しになる理由もここにある。

なお、アジアでは中央集権政治しか経験がなく、地方分権につながる封建制の経験がない。中央集権政治の社会では、不特定多数の人々の間で信頼関係を築くことが難しく、家族主義、血統主義による信頼感しか築けない面が強い。
日本はその例外で、徳川政権は外様大名を中心とした各藩に土木事業等の強制的な課役をm強制することはできたが、各藩の民には影響力を持たなかった。各藩は領民との信頼関係を築くことを優先し、それをもとに藩内の経営に当たった。特産物の開発や新田開発を奨励して、広く教育の機会を与え、藩も民もうるおう経験をしている。その中から信頼関係が生まれている。
このような自治の経験は、日本が比較的容易に民主主義を受け入れ、活用できた基盤になっている。しかし、北朝鮮では人民不信の関係を今もひきずり、地域の助け合いなどは不可能で、独裁しかできない、独裁に有利な状況がある。

ちなみに、「アベノミクス」に対抗しているのが中国の李克強首相が提唱する「リコノミクス」と言われる。李克強氏は、中国のGDPは人為的と述べた人物である。「中国の国内総生産(GDP)は『人為的』であるため信頼できない、との見解を示したことが明らかになった」(「ロイター」2010.12.06、遼寧省書記を務めていた2007年の発言)。中国の銀行はシャドウ・バンキングを行っており巨額の不良債権が隠されているとされるが、中国も正確な人口が分からない等、統計が信用できない国である。
しかし、中国同様に、北朝鮮という独裁国は容易に暴動を軍事力で鎮圧したり、情報を統制できるので民主主義国では経済的に破綻している政権が延命を続けているのである。だが、現状のままではそれにも限度があるだろう。

北朝鮮の食糧生産では、肝心の計量がいい加減である。というより、まともに計量してはノルマが達成できない。しかし、賄賂を使えばノルマは達成できる。そのような水増し数値が積み重ねられて全国の食糧統計が作られている。
水増し数値であっても、見かけの生産量が多いほど、特権階級の取り分が多くなる。それだけ収穫があったのならと、みかけの生産量を前提に特権階級に配給がなされるからである。水増しの方が特権階級に有利なのである。そして、特権階級が持つ余剰食糧が、闇市の価格を左右する。近年は特に、中国の「太子党」のような北朝鮮の超高級幹部の子弟たちが、食糧を大量に保有し、食糧を不足させ、高値で売り抜けているという。それによってさらに特権階級は豊かになる。
その他、中間管理職階級は食糧に近い職場に優先的に配置され、食糧を抜き取ることもできるし、一族を食糧の役得に近い職場に配置することもできる。

人口の水増しも同じである。筆者は、第1回の「1993年人口調査」が既に虚偽の数値と見ているが、それぞれの地域の管理責任者は、飢餓の時期でも一定の人口があるように装わなければ、何らかの管理責任を問われかねない。そこで、死者も生者に統計されていると考えてきた。またその方が、死者の分の食糧を横取りできる。
「最近、北朝鮮の一部の地域で餓死者が発生していることと関連し、朝鮮労働党の中央党が市場の統制を撤回し、餓死者が発生した場合、餓死者が所属している該当機関の関係者も処罰するという指示を下したと伝えられた」(「デーリーNK 」2008.05.29)という報告もある。


目次


※ 北朝鮮食糧問題最新事情(2015.03.26)

はじめに

?.「北朝鮮の食糧事情は安定」報告と北朝鮮から伝わる多くの悲鳴
 1.北朝鮮の食糧事情は安定したのか
 2.不足しているから聞こえてくる悲鳴

?.国連機関の報告は約300万人水増し?北朝鮮の人口
 1.「2008年人口調査」は虚偽調査
 2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
 3.人口は300万人水増し

?.国連機関の報告は水増し?北朝鮮の食糧生産
 1.米は10a当たり180kg程度
 2.メイズは約100万トン水増し
 3.国連機関の報告は毎回基準が異なる
 4.飢餓を無視して核・ミサイルを開発

?.水増し統計を発表し続ける理由
 1.個人独裁の責任が問われる
 2.人口の水増しで国際支援を訴え
 3.国連による食糧支援の問題点
 4.独裁国家への「人道支援」は非人道
 5.米よりご飯を(配給のモニターより消費のモニターを)
 6.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな

資料: FAO/WFP「北朝鮮の穀物および食糧安全保障調査団特別報告」
 1995年?2012年(英文)
資料: FAO/WFP北朝鮮食糧事情合同調査報告書2013
  
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