救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

北朝鮮食糧問題最新事情 2013/14及び2014/15報告について



2015.03.26
 2013/14年度及び2014/15年度の北朝鮮の食糧生産と需要に関する国連機関の報告はこれまでの報告とほとんど変わらず、特に説明を変更する必要もないので、データの掲載と簡単な補足説明を行います。

◆国連機関の報告




※国連機関の報告は秋の収穫後行われるので夏・秋作は確定値、冬・春作は予測値となる。上記の冬小麦・春小麦、その下のじゃがいもについては予測値。なお、農業年度は11月から翌年10月まで。


◆2014/15年度食糧生産について


 FAOの報告によると、2014年/15年度は、稲作の反収が減少したが、トウモロコシの生産量が増加した。11月から2月までの降水量が少なかったことから冬作、春作は減少と予測した。米は作付面積が約4%減少した他、反収が精米で3.3t/ha(前年度3.5 t/ha)に低下した。これは玄米で反収4トン(10a当たり約6.7俵)になる。これは7-8月の降水量不足による、とした。

 北朝鮮では「13年ぶりの大干ばつ」、「農作業に軍も動員、数10万人の労働者や兵士が水を引く戦闘を行っている」と報道された。水田に水を送るポンプが老朽化し人力で対応するしかなかったということだ。朝鮮中央通信も「今回の干ばつは2001年以降で最も深刻だ」、「2月中旬から4月末までの間、全国の降水量は平年の3割程度」と伝えたが、結果は増収という報告はおかしいのではないか。
 朝鮮中央通信は6月にも、「深刻な旱魃、食糧事情さらに悪化か」と報道しており、そうとうの被害が出てもおかしくなかった筈である。
 他方メイズ(とうもろこし、飼料用を食糧としている)は、降水量不足にもかかわらず約15%の増となった。その結果、前年の497.6万トンから508.2万トンと約2%強増加したという。全食糧の不足量は39.4万トン(確定値)から40.7万トン(予測値)に増えたとしている。前年と変わらず概ね豊作だったという報告である。
 なお、「干ばつの影響でトウモロコシなど全作物の収穫量は2013年の半分にしかならなかった」との報告もある(デーリーNK 2015.01.27)。

 FAO/WFPは、2013/14農業年度(2013年11月から2014年10月まで)の北朝鮮の農業生産量は503万トン、不足量はわずかに4万トン(予測値)と報告した。しかし、北朝鮮では配分の問題で弱者は相変わらず不足するとして国際社会に支援を求めた。2014/15農業年度の農業生産量は508.2万トンで前年より生産量は2%以上増えた。にもかかわらず需要が増えたとして国際社会に支援を求めた。
北朝鮮の需要は主として人口増加率0.6%に基づき決めてきた数値である。そして、国連機関は人口増加率について、北朝鮮の依頼を受けて、国連機関の推計値0.7%を0.6%に変更した。食糧は0.6%をはるかに上回って増産されたのだから問題はないはずだが、今回も支援を訴えたのである。

 北朝鮮は、2008年10月1日時点で、1994年以降の人口増加率が0.85%を超えたと嘘の人口センサスを発表した。しかし、その後国連機関に今後は0.6%にしてくれと変更を依頼している。0.85%は国連人口基金(UNFPA)が2009年12月18日、「北朝鮮人口調査報告書(センサス)」を発表した増加率で、UNFPAが行ったとされるものだが、実態は北朝鮮が調査を行ったものである。
 そしてその後国連機関は、食糧問題でも人口増加率を0.6%で計算してきた。そんなに増えたはずがないと思ったから受け入れたのであろう。2014/15農業年度の食糧生産量は2%以上の増加で、人口増加率は0.6%だったのだから不足量が増えるのはおかしいのである。
 上記の需給表を見ると、例えば需要は人口に比例して毎年自然増していない。また、2013/14年度は、需要が急減しているが、著しい人口減があったとも報告されていない。そして2014/15年度は、例えば収穫後ロスを著しく増やすことで需要を増やしている。そうでもしないと、不足量がなくなり、国連が不足を呼びかけることができなくなるからであろう。しかし、実際には厳しい食糧不足が続き、餓死者も出ている。
 2013/14年度報告はこれまで通り2013年11月に報告されたが、2014/15年度報告は2014年内に報告がなく、2015年2月3日に至って、FAOが初めて単独で短く報告しただけだった。報告は基本的に北朝鮮当局の報告に国連機関がわずかに数値を増減させただけのものであるが、その年により、北朝鮮に対して匙加減を使っている。今回は、北朝鮮に迎合した数値と言えるが、本気で支援しようとはしていないように思われる。そして、北朝鮮に留まることが目的のようにも見える。どこの組織でも仕事を減らしたくない、職場を失いたくないということではないか。

◆2013/14年度食糧生産について


 2013/14年度(2013年11月?2014年10月)については、北朝鮮の「労働新聞」が2014年1月18日の社説で、「全党、全国、全人民が決起して農業にすべての力を集中して今年、朝鮮労働党が提示した穀物生産目標を必ず達成しなければならない」と強調した年度であった。農業を強調したのは、1964年2月25日に金日成が、朝鮮労働党中央委員会第4期第8回総会で「わが国における社会主義農村問題に関するテーゼ」を発表して50周年の年であるからとされている。
 しかし、実際には食糧が大幅に足りないため、農業生産が強調されているとしか思えない。既に2014年1月と2月はこれまでより大量の肥料を中国から輸入している。国連報告通りの食糧が本当に生産されていれば、無理して肥料輸入を増やす必要はない。つまり、肥料が決定的に不足していることを示していた。
 なお、この肥料不足を裏付ける別の情報もある。それは処刑された張成沢(元北朝鮮ナンバー2)に責任を押し付ける形で「労働新聞(2013.12.11)」が以下のような内容の記事を掲載したことである。
「張氏や側近が石炭を中国に安値で売り払ったため、南興青年化学連合企業所と興南肥料連合企業所への石炭供給が滞り、肥料生産に支障が生じた」。
これは、北朝鮮の食糧が不足し、経済が停滞していることが全国民に理解されていることを背景にした記事となっているところに注目すべきである。張成沢の「売国的行為」に責任を転嫁して、ようやく肥料を大量輸入することができたと主張している。
朝鮮中央通信(12月13日)には、張成沢は、「私は軍隊と人民が現在の国の経済実態と人民生活が破局に落ちこんでゆくにもかかわらず現政権がいかなる対策も立てることができないという不満を抱くように仕向けようと試みた」と告白したとあり、北朝鮮住民が依然としてどん底の状態にあることが図らずも露呈されてしまった。

 また北朝鮮は2014年1月31日に、歴史上初めて、協同農場の最末端組織の責任者である分組長だけを集めて会議を開いた。そして、生産量を高めるために、圃田担当制を実施すると述べた。一部は昨年から実施し、300%達成など嘘の宣伝が行われている。
 これは、これまで10?25人で構成されていた分組を3?5人単位に縮小し、働いた分組ほど多く配分されるという競争原理を導入したようにも説明されている。しかし、収穫した農作物の余剰分は自由に処分できるとは言っても、「穀物生産計画」の目標値が高すぎて、余剰分など出ないことを知っている農民が本気で対応しようとはしていない。
 北朝鮮の協同農場では目標値(ノルマ)を達成しないと処分されるので達成したことにしているだけで、実際は300万トン程度なのに500万トンも生産したことになっているだけである。それにも拘わらず、さらに大きな目標値を超えろと言われても超えられるはずがないというのが現状である。

 国連北朝鮮人権調査委員会(COI)は2014年2月17日、北朝鮮における人権問題の実態に関する最終報告書を発表し、北朝鮮政権が政策に基づいて「組織的・広範囲かつ深刻な人権侵害」を行っていると指摘し、その内容を9項目上げたが、その第1が北朝鮮国民への「食糧への権利の侵害」であった。
 その後2014年11月18日、国連総会第3委員会(人権)は、日本や欧州連合(EU)が提出した北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を賛成多数で採択した。今回はこれまでとは異なり、安全保障理事会に対し、人権侵害の国際刑事裁判所(ICC)への付託を検討するよう初めて促した。金正恩にとっては、これまでにない厳しい決議案であった。北朝鮮の人権侵害には国民のみならず日本人等拉致被害者への人権侵害も含まれている。
 ICCは戦争犯罪や「人道に対する罪」に関わった個人を裁く機関で、北朝鮮の「国家の最高レベル」が人権侵害に関与したと指摘している。国際社会は「食糧への権利の侵害金正恩を裁くべきとしたのである。同じ国連機関でも、FAOの増産報告とは大きく異なっていることが問題である。
 これに対し金正恩は、「すべての外交力量を、国連の金正恩訴追決議の阻止に集中せよ」と指令している。それほど圧力を感じたのであろう。しかし、2014年12月18日、国連総会は本会議で、北朝鮮の人権侵害を非難する決議案を116か国の賛成多数で可決した。「(北朝鮮で)人道に対する罪が行われたと信じるに足る合理的な根拠が得られた」と指摘してされたのである。
 2013/14年度の食糧の不足量がわずか4万トンなどという報告は信用できる筈がない。

◆近年の北朝鮮情勢と食糧生産


 世界銀行が公表した報告書「世界開発指標2014」によると、「北朝鮮の子ども(5歳以下)のうち、栄養失調と低体重である子どもの割合が全体の19%に達し、北朝鮮住民の3人に1人は健康維持のための栄養摂取ができていない」という(聯合通信2014.04.25)。
 食糧生産が3年連続で改善していると国連機関の報告を踏まえた上で、世界銀行はこのように報告した。また、国連機関は不足量はごくわずかで北朝鮮が自力で輸入できる程度と報告したのに、全く食糧事情は変化していないようである。これはなぜか。北朝鮮農業省の過大報告を国連機関が受け入れたからにほかならない。
 北朝鮮のような独裁国では、ノルマの達成が義務付けられ、達成しなくとも達成したと報告せざるをえないことを国連機関も分かっているはずだ。しかし、知らない振りをしているとしか思えない。

 また、「労働新聞」(電子版2014.04.10)は、最高人民会議(国会)での代議員の異例の発言を掲載した。「緊迫した食糧問題を相変わらず解決できなかった」、「洪水被害を根源的に防ぐ対策を徹底的に講じることができなかった」と報告したのである。
 さらに北朝鮮は、5月末にスウェーデンで行われた拉致問題などの日朝協議で、「コメを含む食糧と医薬品などの支援を日本側に求めていた」(佐賀新聞、2014.06.04)という。拉致問題で何の進展もない中、さすがの外務省も支援は拒否したが、民間の支援は容認したという。食糧不足だからこそ、食糧支援を求めたのである。

 6月には、「労働新聞」が、「1ワットの電気、1グラムの石炭、一滴の水も極力大切に使わなければならない」という金正恩のことばを伝え、資源不足が深刻化していることがうかがえた。

 こういう食糧の見通しが厳しい状況だったにも関わらず、韓国の国家情報院によると、「北が最近、ミサイル発射を続けていて、2月から7月の間に8種250余発のミサイルを発射した。費用だけで6,700万ドル(約69億円)に達する」という(聯合2014.07.31)。
 東亜日報(2014.07.15)によると、「1月から7月13日までに発射した弾道ミサイルやロケットは14回で計97発に上り、発射の総費用は少なくとも1000億ウォン(約102.8億円)超と推計される」、「1000億ウォンは国民の食糧2カ月分に迫る」と報じた。
 「1000億ウォンは国民の食糧2カ月分に迫る」はかなりオーバーで、これだと600億円強=約6億ドルで1年分まかなえることになる。
 核・ミサイル開発と金正恩が幹部に贈り物をするための経費は裏経済でまかなわれているので、これで食糧を輸入することはないにしても、「国民の3人に1人が栄養不良」な現状を考えると、国連北朝鮮人権調査委員会(COI)が、北朝鮮国民への「食糧への権利の侵害」を人権侵害の第1位にあげたのはうなずける。
 
 なお、本文?-3「3.人口は300万人水増し」のところで、著しく人口が減少した世代の兵士充足率が急減していることに触れたが、男性の徴兵期間が10年から11年に延長されただけでなく、ついに女性にも徴兵義務が課されるというニュースが出た。
 北朝鮮では、「2015年春から17歳の女性を対象に7年間の兵役義務を課す決定がなされた」という(東亜日報2014.9.20)。90年代後半には餓死者が頻発し栄養失調児が急増したことが現在の兵力不足の原因だが、女性にまで兵役の義務を課すということも、北朝鮮が公表した90年代後半の人口増加率が虚偽だったこと、大量餓死があったことを示す傍証である。
 なお、「北朝鮮の朝鮮人民軍部隊の内部文書」によると、「食糧不足で兵士の逃亡が相次ぎ、訓練が予定通りできなかったり、任務を遂行できる兵士は40%との記述がある」という(韓国KBSテレビ26.12.07)。

◆食糧の流通だけは独裁が通じない


 北朝鮮の労働党は、2014年9月から、闇市での食糧や物品の売買を禁止し、国営の「糧穀販売所」でしか売買できないようにした、と報道された(聯合2014.10.16)。違反すると米が没収されるため住民の反発が高まっているという。
 北朝鮮はこれまでも給料を100倍にしたり、通貨を切り替えること(デノミ)で、「改革」を行ってきたが、失敗ばかりが続き、結局闇市場に負け続けてきた。
北朝鮮国内では北朝鮮の通貨は信用されないため闇市での流通はほとんど中国元、米ドル、ユーロの外貨で行われているという。「チャンマダン」と呼ばれる闇市の存在が大きくなりすぎ、国家統制を行おうとしても、これだけは独裁権力をもってしても抑えることができないのである。
 闇市を利用してこられた人だけが飢餓の時期も生き残っただけに、生死がかかる闇市問題だけは人民も引くにはいかない。おそらく今回の闇市の禁止措置も、いずれ黙認せざるをえなくなるだろう。そうしなければ、政権への忠誠心が益々低下し、反感だけが高まるからである。

以上
  
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