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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

特別集会 李日奎氏講演1(2026/07/03)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2026.07.03)

■特別集会 李日奎氏講演1

西岡 力(司会・通訳、救う会会長)

 みなさん、こんばんは。みなさんのお手元に資料があると思います。

 李日奎(イ・イルギュ)先生は、元在キューバ北朝鮮大使館の参事官です。

 1972年に平壌で生まれて、平壌外国語大学を卒業されて、外務省に入って、
そして、キューバで2回勤務しているんですけれども、その中で、パナマでの清
川江(ソンチョンガン)号事件の対応をよくやったということで、金正恩表彰状
を受賞し、金正恩にも会っていらっしゃいます。

 2023年に家族とともに韓国に亡命しています。2024年から顔と名前を
出して活動を始められました。

 まさに3年前まで、金正恩政権の中にいた外交エリートですから、今までの脱
北者の人は、どちらかというと金正恩時代とか、金正恩書記とかと言っています
けれども、生々しい今の体制、特に外交分野での金正恩政権の戦略などについて、
よくわかる人であります。

 この本は、李日奎先生の「私が見た金正恩 北朝鮮亡命外交官の手記」で、去
年出しました。私も赤線ばかり引いてたくさん読んだんですけれども、後で聞き
ますが、平壌にある「北塞(プクセ)商店」という日本製品が置いてある外貨ショッ
プで、日本人女性を3人見たという話、それをこの間「産経新聞」が、「そのう
ち1人は特定失踪者の1人と似ていた」という記事を書きましたが、その話につ
いても詳しく後でお聞きしたいというふうに思っています。

 それでは、資料がありますので、資料に沿ってお話をしていただいて、通常は
家族会の人に緊急報告をしていただくんですが、今日は家族の人に最初に質問し
ていただくようにします。聞きたいこともいっぱいあるでしょうから。では、ま
ず1時間くらい話をしていただいて、その後皆さんの質問の時間というふうにし
たいと思います。

◆コロナで住民の生活が大変困難に

李日奎(イ・イルギュ)

 こんにちは。私は北朝鮮で生まれて、2023年まで50年以上北朝鮮で暮ら
してきました。そして今、韓国に来た李日奎です。

 まず、北朝鮮の政権が行ったひどい蛮行により、今も娘さんとお会いになれず、
娘さんを探し続けている横田めぐみさんのお母さんに、30年間北朝鮮の政権の
中で仕事をした人間として謝罪したいと思います(拍手)。

 時間の限りがありますので、今年に与えられた内容についての講演を始めたい
と思います。

 私が今日準備してきた内容は、北朝鮮の最新情勢と日朝関係、そして日本人拉
致問題の展望ということです。

 金正恩政権は2012年に成立しまして、その後、北の体制は困難をたくさん
迎えました。一番困難だったのは、2019年の末から2020年の初め、コロ
ナパンデミックによって外部との接触を完全に遮断した結果、住民の生活は大変
困難になりました。

 90年代の後半、金日成が死んだ後、北では大変困難な時期がありました。そ
れを「苦難の行軍」時代と呼びます。その時、100万人以上の住民が餓死しま
した。私は生まれてから初めて、人間の遺体をその時に目撃しました。

 北朝鮮の困難な時期を描いた映画はたくさんありますが、それは誇張されたも
のではなくて、実際の方がもっとひどかったです。

 その90年代後半の困難な時期よりも、2019年末からコロナで国を閉じて
しまった後の方が、もっと住民の生活が困難だったと言われています。

 北朝鮮は国際制裁を受けているので、唯一、住民が食べていく手段は、中国と
の間の密貿易しかありませんでした。それだけを遮断してしまえば、また餓死者
が出てしまうというのが北の実情です。

 民心が混乱してきました。金正恩はそれを防ごうと、労働法を通じた、また法
律を通じた、住民統制を強めました。政府は立法などの政策を作る党ではありま
せん。党の仕事は、住民への監視統制です。

 世界には政党が多いです。日本の場合は自民党、民主党、公明党等があると聞
いていますが、それらの政党は選挙のために、また政策を作るためにあるのです
が、北朝鮮の労働党の基本的な任務は住民の監視です。北朝鮮の労働党は、蜘蛛
の糸のように、あるいは細胞のように、全国に網を張って、住民の動向を監視し
ています。

 金正日(キム・ジョンイル)時代は、先軍政治と言って軍隊を先にするという
ことで、党の機能を若干弱めた時期がありました。

 金正日は軍を先に立てて、韓国やアメリカや日本の侵攻を防ぎ、また国内の反
対体制の動きを軍によって封じることをしました。

◆エリートは一般住民より監視・統制がひどい

 金正恩時代になって、軍に力を与える政治から党に力を与える政治に転換しま
した。党に力を与える唯一の理由は、社会に対する監視・統制と処刑です。結局、
恐怖政治を極大化したのです。党を通じて、住民たちの一挙一動を監視して、社
会に対する党の統制が強まっていったのです。

 その時期、私は外務省の副局長として勤務していたのですが、毎日8時間働く
とすると、実は毎時間ごとに自分は何をするのかということを予め党に報告し、
そして毎日夕方にその通りやったかどうか点検を受けるという生活をずっと重ね
ました。

 一部の人たちは、「北でもエリートはそれなりの生活をしている。かわいそう
なのは住民だ」というふうな見方があります。しかし、実際、一般住民に対する
党の監視・統制は、住民に対するものよりもエリートに対する監視・統制がとて
も大きくて、そしてまた何かの失敗をしたときの処罰の度合いもエリートの方が
もっとひどいです。

 一般住民たちも政権に対する不満を持っていますが、エリートたちもそれと負
けないくらい政権に対する不満を持っているということです。

◆金正恩の三大悪法

 金正恩(キム・ジョンウン)時代になってもう一つの特徴は、党に対する統制
だけではなくて、新しい法律をつくって住民に対する統制を強めたということで
す。

 2020年から21年、23年と、次々に(外部文化を遮断する)悪法が出て
きました。これを「三大悪法」と呼びます。一つは、「反動思想文化排撃法」、
「青年教養保障法」、そして「平壌文化語保護法」です。

 当時、私はキューバ大使館の参事官として勤務していました。新しい政策が北
朝鮮で出ると、外交官たちはそれを当該国で宣伝しなければいけません。しかし、
この三大新法について、「宣伝しろ」という指示は下りてきませんでした。

 外国人たちが疑問を持ち始めました。キューバはアメリカとの関係が大変敵対
的です。キューバの人たちが私たちに質問しました。「私たちキューバはアメリ
カの宿敵だ」と。「100年の敵がアメリカだ」と。

「しかし、うちでテレビを見ればアメリカの映画を見られる」。「あなたたちは、
韓国と同族じゃないか」。「同族の映画を見たと言って、刑務所に入れたり処刑
したりするのは理解できない」と。そのような国際社会の疑いの目を向けられな
がらも、金正恩政権は住民統制を強めていきました。最近も司法制度を通じた統
制を強化しています。

◆北朝鮮住民は韓国に対する幻想が強いので、金正恩は体制危機を感じた

 以上、政治社会分野について申し上げたのですが、次に経済防衛分野について
申し上げます。2023年12月に、「韓国は同族ではなく敵対的な二国関係だ」
と発表し、そして2024年1月に金正恩が地方経済発展計画を発表しました。

 北朝鮮の人たちは実は韓国に対する幻想が多いのです。昔、70年代、80年
代は北朝鮮が韓国よりも生活が豊かでした。しかし90年代に北朝鮮は危機を迎
え、南北の体制競争で北朝鮮は敗北します。その時、韓国からの経済支援を受け
た。

 また、チャンマダンという市場を通じて、韓国のドラマが広がって、韓国の実
態を住民たちが知るようになった。

 韓国に対する幻想が強ければ強いほど、統一に対する熱望も強くなります。住
民が韓国に対する幻想が強く、統一に対する幻想が強ければ強いほど、金正恩は
体制に対する危機を感じました。これがまさに金正恩が、南北の関係を二つの国
だという風に位置付けた要因の中の一つです。

 韓国を外国と位置付けて、統一に対する幻想を捨てさせ、原始時代のような北
朝鮮の住民の生活を改善させて、自分に対する忠誠心をもう一度回復しようとし
て出してきたのが、新地方発展政策です。

 皆さんの中で北朝鮮に行ったことがある人も、もしかしたらおられるかもしれ
ませんが、北朝鮮に行かれたとしても、それは当局が指定した場所を監視の下に
見るだけであって、実際に北朝鮮の地方でどのような生活をしているのかという
のを見たらば、本当に驚かれると思います。

 私の息子が海外にいて、列車で北朝鮮に帰国した。その列車の中から北朝鮮の
農村の家の様子を見た。私の息子がその時、私に質問をしました。「お父さん、
あの家で人が住んでいるの」と。その程度、北朝鮮の地方の状態は劣悪です。ま
ともな工場もないし、生活のインフラもないし、住民の生活は大変悪いです。

◆ウクライナ戦争で朝露密着

 2022年2月にロシア・ウクライナ戦争が起きました。ロシアと北朝鮮の密
着が始まり、ロシアからそれほど多くはありませんが、それなりに食糧とエネル
ギーの支援をもらいました。

 それによって、金正恩が少し自信を持って地方の経済を発展させて、もう一度
自分に対する忠誠を持たせようとして出してきたのが地方発展政策です。遺憾な
ことに、金正恩の地方発展政策が成功する可能性はほとんどないと私は思います。

 金正恩の地方発展政策が成功すれば、これは人権とか民主主義とか統一とかイ
デオロギーとかに関係なく、北の住民の生活が良くなるのですから、私はそれを
望みます。

 地方発展政策は成功しないと私が思う理由のうち、主要な2つを説明します。

 第一は、社会主義経済システムです。社会主義計画経済システムは、90年代、
東ヨーロッパが崩壊して、歴史の中で葬られたシステムです。

今、社会主義をやっている中国やベトナムも、社会主義計画経済を実施してはい
ません。

 唯一社会主義計画経済をやっている国は、全世界で2つしかありません。キュー
バと北朝鮮です。

 キューバは、もうほとんど復活することができない程度になっています。北朝
鮮も改革開放をしない限り、社会主義計画経済をしている限り、経済が立ち直る
可能性はゼロです。

 2番目の理由は、国際社会の制裁です。

 国際社会の対北制裁が解除されない限り、北朝鮮の経済が回復する保障はあり
ません。この2つは、両方とも体制の安定と連結しています。改革開放をすれば、

 金ファミリーの独裁が正当性を失います。

 国際制裁を解除してもらうためには、非核化をしなければいけませんが、非核
化をすることは、体制の安定に大きな動揺を与えます。

 結果的に、金ファミリーだけのために、改革開放もできず、核放棄もできない
ので、北朝鮮の経済回復の見通しはないということです。

◆核兵器を持っても自分を守れないことを金正恩は知った

 次に、国防分野について簡単に申し上げます。

 金正恩は、ロシア・ウクライナ戦争を見て、大きな深刻な教訓を得ました。
「核兵器ひとつでは、体制を守ることはできない」。

 世界で一番多くの核弾頭を持っているロシアは、戦争で戦術核兵器をひとつも
使うことができないのを見て、核兵器だけを持って自分を守ることはできないと
いうことを金正恩は教訓にしたのです。


 実際の戦争で使う武器は在来式の兵器だということが分かった。昨年、金正恩
は軍事工場を視察し、そして今年の第九回党大会で、核武力と在来式武力を平行
して進める路線を宣言しました。核弾頭の多種化、軽量化、標準化等を進める一
方、駆逐艦、ドローン、特殊戦力等を実用化可能にすることにも努力した。

 対外戦略について申し上げます。昔、金日成(キム・イルソン)時代は外交の
領域が広かった。当時は韓国よりも北朝鮮と国交を結んでいる国が多かったので
す。金日成は当時の15の社会主義国家だけではなくて、非同盟国家まで外交の
領域を広げました。自然と北朝鮮の外交舞台は広がり、国際社会からの支持も強
まりました。

 1990年代、北朝鮮の核問題が浮上しました。1995年から北朝鮮では
「苦難の行軍」事態を迎え、大量の脱北者が発生しました。脱北者の証言によっ
て北朝鮮の劣悪な人権状況が明らかになり、国際社会は北朝鮮の人権問題に関心
を持つようになりました。その時から北朝鮮の外交は多国間外交、非同盟外交か
ら、兄弟国に対する外交に転換しました。

 大国外交において、北朝鮮が重視する大国は、ロシア、中国、アメリカ、日本
です。

 ロシアとの関係をまず申し上げます。実際、北朝鮮はロシアに対する関心はそ
れほど大きくありませんでした。しかしロシアは、ウクライナ戦争の後、多くの
支援を受けることになって、ロシアは北朝鮮を戦略的な同盟関係と見なしました。

◆朝露密着で制裁が無力化、中国は不快感

 朝露密着によって北朝鮮が得る最大の利益は何か。政治的な利益のことです。
国連安保理の常任理事国であるロシアの地位を利用して、北朝鮮の不法行為に対
して国際社会がこれ以上制裁をすることができなくなりました。安保理の対北制
裁専門家パネルが、ロシアの拒否権によって解体されました。


 その後、北朝鮮は何回もミサイルを発射し、金正恩がウラン濃縮施設を訪問し
ましたが、国際社会は一回も制裁をすることができていません。ロシアを通じて
国際社会の対北制裁の無力化が始まりました。制裁が無力化したことによって、
制裁で禁止されていた軍事協力が実現し、また北朝鮮から買ってはいけないもの
とされているものが大規模にロシアに流れるようになりました。制限された量で
はありますが、食糧とエネルギーを確保しました。しかし、経済分野に比べると、
最も大きな利益を得たのは軍事分野でした。これらはマスコミから出されている
ので、私はこれ以上申し上げません。


 私が北朝鮮に住んでいた時、ロシアと北朝鮮が密着関係を維持するため、中国
は非常にこれを嫌がりました。中国の北朝鮮に対する不快感について、現在のマ
スコミに公開されていない一つの例だけを挙げます。


 中国と北朝鮮の間では、外交旅券や公務旅券(オフィシャルパスポート)はノー
ビザ(査証免除)という協定がありました。しかし、北朝鮮がロシアと密着した
頃から、公務旅券に対してもビザを要求し始めました。

 公務旅券はどのような条件かを説明します。外交旅券は外交官が持っているも
のです。公務旅券は外交官以外のすべての公務員が持っているものです。中国で
活動していた会社の社長たち、あるいは食堂などの支配人たち、あるいはハッカー
たちもみんな公務旅券を持っていました。この人たちがこれ以上中国に在留する
ことが難しくなりました。この人たちが中国に滞在できなくなれば、もちろん、
北朝鮮が受ける経済的な損失は大きくなります。

 しかし、この公務旅券のノービザは、両国の間のビザ協定によって今まで維持
されてきたものです。中国は協定も無視し、国際制裁を口実にして、いまだに公
務旅券のノービザを止めてしまっています。

◆金正恩訪中で急速に改善の兆候

 このように悪化した中朝関係が、去年の9月の金正恩の訪露、今年6月中旬の
訪中の動きで緩和の兆しを見せてきました。金正恩としては、自分が掲げた地方
発展政策を、中国との関係を改善させて初めて成功させることができます。また、
中国は北朝鮮を米中対立の中の一つのコマとして考え始めたと私は見ています。

 中国はこれまでは北朝鮮を緩衝地帯として管理をしてきましたが、最近になっ
て米中対立の段階での戦略的資産とみなすようになってきたという情報をいくつ
か見ることができます。中朝関係が急速度で改善されていくのではないかという
見通しがあり、特に国境を通じた密貿易がまた活発になるような兆候がいくつか
見えています。

(2につづく)


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