救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

国際セミナー「拉致被害者はなぜ生きていると言えるのか」レポート[1](2011/12/28)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2011.12.28-3)

■国際セミナー「拉致被害者はなぜ生きていると言えるのか」レポート

平成23年12月10日、都市センターホテル

櫻井よしこ(総合司会)

 皆様こんにちは。休日の土曜日、よくおいでくださいました。私たちの国が北
朝鮮という国家によって多くの国民を拉致されて、本当に長い時間が過ぎていま
す。この間に、戻ってきたのは本当にごく一部であります。多くの人々が、特定
失踪者も含めて行方が分かっていない状況が幾十年も続いています。

 私たちは、常にこれは国家なのかという疑問を抱いて参りました。その間に、
もう他の人々は亡くなっているんだということが北朝鮮側から言われ続けてきま
した。日本の側にもそのような意見に同調する人々が少なからずいます。

 そうではないんですね。第一に、問題の解決を図るにはそんなことを考えてい
ては何も進まないのであります。第二に、拉致された犠牲者が亡くなっていると
いう証拠はどこにもありません。むしろその反対の、まだ生存していらっしゃる、
どこかにいらっしゃるという事実関係を示す情報が漏れ伝わってきます。私たち
は国家の意思として、また民族の決意として、そしてこの地球上に生きる人間の
いわゆる基本的人権、その人の生存権、自由権というものを信じる民主主義社会
の一員として、この拉致問題を真正面から正しい方向で解決して行きたいと念じ
てきました。

 拉致被害者はなぜ生きていると、ご家族の皆様方、それから超党派の議連の皆
様方、救う会のメンバーが主張してきたのか、その証拠を具体的にみんなで話し
合いながらそれを共通の土台としてこれからの拉致問題解決への動きを確かなも
のにしたいと感じてきょうのセミナーを開きました。国際セミナーでありますの
で、外国からの人々も参加してくださいます。後ほどご紹介させていただきたい
と思いますが、まずきょうの開会の挨拶を家族会を代表致しまして飯塚繁雄さん
にお願いしたいと思います。

◆何としても愛しい家族を取り返す

飯塚繁雄(家族会代表)

 皆様こんにちは。特にきょうは韓国から大勢の方々がいらっしゃっていますの
で、その情報を伺いながら、あるいは日本の情報とも照らし合わせながら、今後
どうやったらいち早くこの問題が解決するかという方向をきちっと見極めて対処
していきたいと考えております。

 北朝鮮に対しては、皆様ご承知のとおり、今のところ取り付く島のない状況で
すけれども、わが日本が国家として、この拉致問題をいつまでに解決するんだと
いう強い大きなメッセージがまず必要なのではないかと常日頃から考えておりま
す。私たちとしては政権、政府にこの解決を訴えるしかないわけですけれども、
依然として、どうしようと思っているのかも分からない状況です。

 きょう、この国際セミナーの中で、実態、状況をきちっと踏まえ理解した上で
今後の戦略を考えていく大きな場になるというふうに考えております。長い間か
かっています。家族会はもうすでに14年、この問題に対して戦ってきておりま
す。しかしながら具体的な進展はなく今まできていますけれども、我々としては
何としても愛しい家族を取り返すんだという意気込みの中で、家族の人たちは老
体に鞭打って頑張り続けております。

 今この拉致問題はまさに国際的な問題となっております。国連でも論議されて
います。先だっても北朝鮮非難決議が採択されました。しかも賛成の国がどんど
ん増えています。そういう状況の中で一番多くの被害者を抱えている韓国、そし
て日本、この両国が特に手を取り合って、両国の国民、そして政府がこの問題に
集中して一丸となった形で対応すべきだと考えております。皆様のいろんなご意
見、ご支援をいただきながら、また闘って参りますので、きょうはよろしくお願
い致します。

櫻井よしこ 飯塚さん、ありがとうございました。次に拉致議連会長の平沼赳夫
さんによろしくお願い致します。、

◆今日いよいよ生存が明らかになる

平沼赳夫(拉致議連会長)

 皆様方こんにちは。我々議員連盟と致しましても、拉致された皆様方は生きて
おられるという前提の中で、国会の中に特別委員会も作らせていただきました。
もちろん決議もさせていただきましたし、法案も2本作らせていただいたわけで
あります。一つは特定船舶入港禁止法であり、もう一つは改正外為法であります。
厳しいですけれども、歯を食いしばって、やはり制裁をしなければならないとい
うことで頑張っているわけであります。

 きょうは、韓国から、元北朝鮮の統一戦線部幹部の張哲賢さん、そして大学教
授も務められ、今は韓国の拉致問題で一生懸命頑張っておられる金美英さんたち
にも参加していただいて、拉致被害者は生存しているということでセミナーが開
かれることは大変意義深いことだと思っております。韓国の象徴的な申淑子さん
に関しましてはご主人の呉吉男さんが来られる予定でしたけれども、体調を崩さ
れましてメッセージをいただいております。

 きょうのセミナーを通じて、いよいよ生存というものが明らかになるのではな
いかと思っており、我々議連としても参画させていただきました。きょうのご参
画に心から敬意を表し、私の挨拶に代えさせていただきます。

櫻井よしこ 平沼赳夫先生、ありがとうございました。次のご来賓は、衆議院議
員で内閣府拉致問題担当大臣政務官である郡和子さんにお願い致します。

◆やれることは何でもやるという覚悟で

郡和子(政務官)

 皆様こんにちは。きょうは、北朝鮮人権法における北朝鮮人権侵害問題啓発週
間の初日であります。その啓発週間のスタートを切って開催される家族会、救う
会、拉致議連の国際セミナーにお招きいただきましたこと、政府を代表してご挨
拶をさせていただく機会を与えていただきましたことに感謝申し上げたいと存じ
ます。

 きょうのセミナーに参加されております拉致被害者のご家族の皆様方は、お子
さんやご兄弟などを拉致されて既に30数年という長い年月が経過しております。
いまだに拉致被害者の方々にご帰国いただくことができないことにつきまして、
非常に強い憤りをお持ちであるということは十分に認識しておりますし、私も政
府の責任者の一人として大変申し訳なく思っているところでございます。

 拉致問題は、言うまでもありませんけれどもわが国に対する主権の侵害である
とともに国民の生命と安全に関わる重大な人権侵害であって、決して許されない
行為であります。同時に北朝鮮はわが国以外の多くの国からも拉致をしたとされ
ていて、本日ご参加いただいております韓国でも被害者は5百人にものぼるとさ
れるなど、わが国のみならず国際的な連携、取り組みが重要になっているわけで
ございます。

 昨今、南北や米朝などの動きも見られるわけですけれども、10月、野田総理
と拉致被害者のご家族の皆様方との面会の席におきまして、総理が、「自分とし
ては北朝鮮に行って、拉致問題をはじめとする諸問題を解決できるのであれば、
いつでも行く。まずはそのための環境整備をしたい」と言及されました。政府と
致しましては、すべての拉致被害者の即時帰国につながる方策を講じることがで
きるように、韓国をはじめとする関係各国等とも国際的な連携の強化とあらゆる
努力を行っているところです。政府と致しましてはこうした国際連携のほか1日
でも早い拉致被害者の帰国を実現すべく、やれることは何でもやるという覚悟で
臨んで参ります。

 きょうから16日までの北朝鮮人権侵害問題啓発週間における各種行事を通じ
まして、国民の皆様方各層及び国際社会の支持や理解が広まりますことを祈念す
るとともに、先ほど飯塚代表からも厳しいご挨拶がございましたけれども、政府
の取り組みに対しては皆様方の力強いご理解とご支援をお願い申し上げまして私
の挨拶にさせていただきます。

櫻井よしこ ありがとうございました。次に衆議院議員で北朝鮮による拉致問題
等に関する特別委員会の委員長の中津川博郷さんにお願い致します。

◆アメリカの協力がなければだめ

中津川博郷(衆議院拉致特委員長)

 皆さんこんにちは。このたび衆議院の拉致問題等に関する特別委員会の委員長
を拝命されまして、身の引き締まるような思いで一生懸命やっているところでご
ざいますが、今まで私も、盟友の松原仁衆議院議員と違って地味ながら横田さん
ご夫妻をお招きして講演会をやったり、またいろいろな集会に出て参りましたが、
今度委員長になった以上、少しでも進めたいと、今やる気満々でございます。

 私が尊敬する平沼赳夫先生、そして郡政務官も大変熱心で、東日本大震災の方
の担当でもあるわけですが、政府の方も今、野田総理も思い入れはものすごく強
いわけでありまして、とにかく委員会を、回数を増やして、できるならば、ロス
レイテネンさん(米下院外交委員長)とも会いにアメリカにも行ってこようかな
と。アメリカの協力がなければだめだと思うんですね。北朝鮮はやくざよりひど
い国でありますから、話が分からないところがありますので。家族会の皆さんた
ちもだんだんご高齢にもなりまして、今、最後のチャンスかなあとも思っており
ます。

 ここのところ国会の方でも展示会があったり講演会があったり、また明日も集
会がございます。今ちょうどそんなような空気が盛り上がってきておりますので。
これは民主党、自民党との戦いじゃありません。自民党も公明党も共産党もね、
みんな、これは日本の国民の生命を守るということで、対立法案じゃありません
から、そこのところを一致協力して委員会のほうを、やったなあという風に皆さ
ん方からご評価いただけるように頑張りたいと思います。

 なんか決意表明みたいになりましたが、一緒にどうぞご指導いただいて、なん
とかこの野田政権の中で、私も全力で取り組んでいきたいと思いますので、どう
ぞお見知りおきいただいて、どうぞよろしくお願い致します。一緒になって頑張
りましょう。

櫻井よしこ ありがとうございました。野田政権になりまして、本当にどこまで
解決のお気持ちがおありなのか。大臣がころころ代わる。担当者がころころ代わ
るという中で、中津川さんの今の決意表明は非常に心強かったと思います。どう
ぞよろしくお願いを致します。次に松原仁さんにお願い致します。いろんな経緯
がございましたことは皆様方もご承知のとおりであります。今は前拉致議連事務
局長ということだけで紹介してくれと言われましたのでそのように致します。松
原仁さんです。

◆原点は拉致被害者の方々は生きているとの信念

松原仁(前拉致議連事務局長)

 拉致議連の事務局長を致しておりまして、今は笠君に代わっておりますが、松
原仁であります。今、中津川さんからお話がありましたロスレイテネンさんは、
本当は、今年の7月に平沼会長と一緒に訪米した時、この週間にぜひ来てほしい
ということをかなり強く申し上げ交渉しておりましたが、ぎりぎりで来られなく
なりました。皆さん頑張ってくれということでございますのでお伝えしておきた
いと思います。

 言うまでもなく拉致問題の解決は最終的には対話をしなければいけないのは事
実であります。しかしその対話を実効性あるものにするためには様々な舞台装置
が必要であって、それは鞭が大きな要素であり、飴ももしかしたらあるかも知れ
ないと、そういった様々な実効性ある舞台をつくることがどこまでできるのかと
いうのが実は政治に課せられたテーマだろうと思っております。

 しかし私は、もちろんそのためにも汗を流し、ずーっとこのことに取り組んで
きた多くの仲間、また新しくこのことに問題意識を持つ仲間とともに汗を流して
頑張っていきたいと思いますが、その原点にあるのは、きょうこの会合において
皆さんが確信を持つに至る拉致被害者の方々は生きていると、この信念こそが我
々が運動、そして土俵づくりをし、そして対話をし、取り戻し、そして日本の国
益を取り戻す、そして一人一人の人権を取り戻すための大前提だろうと思ってお
ります。どうかきょうのこの会をとおして一人一人の参加者がその確信を高める
ことを正に確信して私の挨拶と致します。

櫻井 今日は、この基調報告や皆様のスピーチから非常に多くのことが分かると
思います。私は、今日の国際セミナーが、拉致問題の解決に非常に大きなエネル
ギーを与えてくれるのではないかと期待しています。

 まず基調報告1として、元北朝鮮の統一戦線部で仕事をしておられて、脱北し
て韓国におられる張哲賢(チャン・チョルヒョン)さんをご紹介します。張哲賢
さんは3年前にもこの会で報告してくれました。その時も非常に大きな情報をも
たらしてくれました。

 その時はまだ、身分を公にすることができなかったのですが、今日は、実名と
お顔を示して基調報告をしてくださいます。西岡さんに通訳をお願いします。

◆【基調報告1 小泉総理の北朝鮮訪問前後の北朝鮮の状況】

張哲賢 最初に呼んでいただいた時、私が北朝鮮の政権を代表するわけにはいき
ませんが、北にいたものの立場として、横田めぐみさんのお母さんに謝罪をし、
また激励を申し上げた記憶があります。しかし、その後も時間が経ち、このよう
に来ることになりました。

 時間を節約するため、日本語の発表文が配布されていますので、その部分は通
訳に任せ、その中で強調したい部分だけを申し上げます。

 これから私が発表します報告は、私が北朝鮮にいた時、北の工作機関の中で見
た内部の報告書を土台にして作ったものです。小泉訪朝前後のことについてです
が、もちろん、日本側の主張と北側の主張は違いがあると思いますが、北側から
どのように見えていたのかということについては、大変根拠のあるものになると
自負しています。

※発表論文は、メールニュース(23.12.14)参照。

張 首脳会談の北朝鮮の目的は大きく言って二つあると思います。まず、「苦難
の行軍」という大変苦しい時期を経ていたので、日本から大規模な経済支援を取
るということです。二つ目に、2年前に南北首脳会談をしましたので、日本とも
国交回復をして、国際的地位を高めるということです。

 北側から見た、日本の小泉総理の訪朝の目的は、小泉内閣の支持率が落ちてい
たので、それを回復しようとしていたのではないか。この点が日本側の弱点だと
北側では分析していました。

 首脳会談における日本と北朝鮮の立場の比較の項では、初期の両国の立場、そ
してその後の両国の変化について分析しましたが、第1に重要な点は、北朝鮮は
日本の植民地統治に対する賠償として400億ドル規模を求めたということです。

 その根拠として、北側は、植民地統治過程における資源収奪、人材収奪、そし
て物質的・精神的損害賠償まで含めて計算して400億ドルだと言いました。そ
れに対し、私が見た資料によると、日本側は次のように反論をした。日本が戦争
に負けた8月15日以降、日本は北朝鮮に発電所や鉱山、金鉱などを置いてきた。
それを北朝鮮は無断で使用した。その利子を払えという主張を日本側はした。

 それに対して北側は有効な回答をすることができなかった。その結果、合意金
額が400億ドルから114億ドルに落ちた。私の記憶では114か115億ド
ルだったと覚えています。

 日本は過去への公開謝罪と北朝鮮政権の拉致犯罪への公開謝罪を交換する形の
両国の同時反省を提案した。しかし北側は、日本の過去に関する公開謝罪を求め
ながら、自分たちは拉致問題に対する個別の関係機関の反省と謝罪、処罰は可能
だが政権次元の公式的立場の発表はできないという立場だった。北朝鮮の外務省
は部分的に拉致を認めることについては、認められるという立場でしたが、我々
統一戦線部を含む北朝鮮の工作機関は、部分的な認定は全面的な認定に拡大して
しまうと、金正日の権威と連係させて部分的認定に反対するという立場でした。

 金正日の拉致認定及び謝罪は、実は、事前に準備されたものではありませんで
した。当日の午前の会談が終わった後、休憩の時間に日本側の代表団の誰かが、
「北朝鮮が公開的な謝罪をしないなら帰ろう」という発言をしたという盗聴資料
が金正日のところに上げられ、その資料を見た金正日が事前に誰とも相談しない
で、自分一人の決断で午後の会談で謝罪したのです。

 当時の北朝鮮の放送では、金正日が拉致を謝罪したとは報道しませんでした。
「認めた」という表現を使いました。なぜなら、金正日は神様のような存在です
から間違えることはないので、謝罪することはないということが前提の社会だか
らです。

 日本と北の首脳会談の後、金正日は北の外務省の資質能力について疑問を持ち
始めました。外務省は単純な結果主義者だと。戦略はなく希望だけ持って、こう
なるだろうと信じて仕事をする安易な機関だと批判しました。

 そして金正日は統一戦線部を再評価しました。統一戦線部は交渉において、交
渉の課題を提示し、交渉を実行するだけではなくて、その交渉の前後に目的が成
就するように、心理戦まで展開できる部署である、ということです。

 そこで首脳会談の後、対日交渉は外務省から統一戦線部をはじめとする党の工
作機関に移管されました。その時金正日が話したのが、「外交も工作だ」という
ことです。

 統一戦線部は日本の中の朝鮮総連を行政的に指導しているわけですが、朝鮮総
連や日本の中の様々な工作員を使い、心理戦を開始しました。その時の経験から、
「めぐみさんは生きている」と言える一つの根拠があります。もしも金正日がそ
の時点で、めぐみさんが死んでいると知っていたのであれば、「めぐみさんが死
んでいるという前提で工作をせよ、心理戦を展開せよ」という指示が下りてきた
筈ですが、そのようなことは一切なく、「拉致問題から国交正常化へもう一度雰
囲気を戻せ。そのための心理戦をせよ」という指示が下りてきたからです。


 おかしかったことは、金正日の心理戦指示が出た2日後に、めぐみさんの両親
に関する資料が総合的にまとめられたということです。当時の文書の中で、私が
今でも覚えている表現は、「めぐみさんのお母さんを田舎の馬鹿なおばさんとい
う風に扱え」、そして「右翼に利用されているだけの人なんだという風に心理戦
をせよ」と書いてあったことです。

 日朝首脳会談の後、金正日が下した結論的な命令があるのですが、それは「6.
15南北首脳会談のように事前に代価を貰わない限り、日本とはもう二度と首脳
会談のようなことはするな」という内容です。

 また、報告書には書きませんでしたが、私が北朝鮮で聞いた拉致のことを少し
申し上げます。拉致が始まったのは金正日の「現地化」指令のためです。私が勤
務していた統一戦線部にも、金正日の「現地化」指令が標語として掲げられてい
たのです。それは何かというと、「平壌の中のソウルになれ」という「現地化」
指令でした。

 なぜ「現地化」ということが大切になるかと言いますと、北朝鮮というのは自
由民主主義国家でもなく、一般的な社会主義国家でもない封建国家ですから、他
の国との異質さが顕著であったからです。

「現地化」は大人になってからでは難しいので、全世界から子どもを拉致してき
て、子どもに北朝鮮の教育をして、そしてスパイとして使おうということも考え
た。その「現地化」こそが、1977年頃全世界で起きた子ども拉致の原点でし
た。

 そして子どもを拉致しましたが、子どもたちは情緒的な安定を欠いてしまい、
子ども拉致がうまくいかなかったので、「現地化」された工作員として使えず、
その後に金正日から出た指示が、「シバジ」でした。

※「シバジ」というのを、訳者として補足しますと、朝鮮王朝時代に、男の子が
生まれなかった両班(ヤンバン、貴族階級に相当)の家庭で、夫の側に妊娠させ
る力がないことが判明した場合、秘密裏に夫以外の男性を使い夫人を妊娠させ、
男の子と得ようとしたことです。

 80年代の初頭、半ばからその「シバジ」工作が始まった。外国人の男性と北
朝鮮の工作員女性の間で子どもを産ませ、その子どもを母親である北朝鮮工作員
が育てる。外形的には白人なら白人、黒人なら黒人の父親の特徴を持っているが、
生まれた時から北朝鮮で工作員として教育するということを行いました。

 ジェンキンズさんが北朝鮮から脱出しようと思った動機の一つに、自分たちの
子どもがスパイとして使われるのではないかという風に恐れたと証言していると
聞きましたが、それもまさに同じ事だと思います。

 次に横田めぐみさんの死亡の疑問点と生存の可能性について、北朝鮮にいた立
場で整理してみました。

 一番信じられないのは、めぐみさんが49号予防院で死亡したという主張です。
北では精神的におかしくなった人を「49号」と言います。そして北朝鮮の中で
そういう人たちを治療する病院は、この49号予防院一つしかありません。全国
で精神病になった人たちをここに集めます。治療というよりも収監する、とじこ
める場所です。

 なぜ北朝鮮の主張がおかしいのか。めぐみさんは工作部署にいたわけですから、
一般人が収容される49号予防院ではなく、対南工作機関要員とその家族を治療
する専門の915病院に入院されなければならない。北朝鮮が、めぐみさんは9
15病院に入院したと言っているのならば信憑性があると言えます。

 特に、めぐみさんの夫も韓国人拉致被害者だったわけです。それなのに、全国
から一般の国民が入院している病院に入れるということは、秘密を守るという観
点からありえない。915病院に入れて治療するのが普通のあり方です。

 また、もう一つおかしいのは北朝鮮が出してきた死亡確認書です。その死亡確
認書は死亡日と同じ日付で発行されています。北朝鮮には生命保険がありません。
保険制度がない国です。

 ですから北朝鮮における死亡確認書というのは、権力機関が名簿等を整理する
ために貰うものであって、交通手段も通信手段も最悪な北朝鮮のようなところで、
その日のうちに死亡確認書が出るということはありえないのです。

 3番目に北朝鮮が主張するめぐみさんの遺骨の管理の疑問点です。北朝鮮は、
当時の夫である金英男さんが、病院の後ろの山に埋めたと言っています。北朝鮮
では、病院の周辺に墓を作ることはできません。これは北朝鮮の環境法にも違反
します。特に北朝鮮では、個人が自由に墓を作ることはできません。

 そしてまた北朝鮮では全部が国有地です。またたいがいの山は、農耕地が少な
いので、農耕地として使うことになっています。従って、山も勝手に墓に使うこ
とはできません。

 人間が死亡していた場合、それぞれが所属していた機関が、職員を埋める墓地
区域を持っていて、そこに埋葬することになります。対南工作機関の墓地区域は
平壌市の順安区域です。北朝鮮の主張が少しでも信憑性を持つためには順安区域
の墓地に埋葬したという表現が出てこなければならないということです。そして
北朝鮮の通念上、一度埋めた人を別のところに埋めなおすことは2回殺すことに
なるという意識がありますから、そういうことも起こりえない。

 また、北朝鮮には火葬場が全国で2つしかありません。どのような幹部でも順
番待ちをしなければならない。自分が生きている間に、自分はもう生存の可能性
がないと分かった段階で、順番を取らなければならない。それくらい順番を待た
なければならないのに、金英男氏が勝手に掘り出し、また順番を無視して火葬し
たということはありえません。

 また金英男氏は、めぐみさんの遺骨を自宅に保管したと言っていますが、北朝
鮮は徹底した個人神格化国家であり、個人が自分の家族・親戚の遺骨を自分の家
に保管することは絶対に許されません。

 北朝鮮は、自分の経済を再建することができない国です。ですから外国から支
援を得なければならない。そういう観点から、彼らは交渉には大変力を入れてい
ます。交渉準備を徹底的にやる国です。ところが日朝首脳会談の前に、めぐみさ
んが死亡することを証明する準備がまったくなされていなかったという点もおか
しいことです。その部分については報告文に書いておきました。

 最後に、今、北は何を考えているかということについて少し申し上げます。北
朝鮮は日朝首脳会談で大変大きなことをしました。金正日が出てきて、拉致を認
めたわけです。きれ以上、北朝鮮は政府次元で何かをしないと思います。ですか
ら、アメリカとの二国間交渉、あるいは韓国との交渉を通じて、日本を孤立させ
る政策を取る筈です。

 そして北朝鮮は待っていると思います。このことを申し上げるのは失礼になる
かもしれませんが、敢えて申し上げると、家族会のご両親が亡くなられるのを待っ
ている。時間を稼ごうとしている理由は、彼らは長期独裁国家ですから時間にし
ばられていない。

 日本ができることについて3つ申し上げます。

 第1に、日本は6者協議の参加国として、北朝鮮の核廃棄費用の分担国です。
そして北朝鮮が参加する多者協議の枠組みは6者協議しかありませんから、6者
協議の枠組みの中に拉致問題をはめこまなければなりません。

 日本の外交当局はもっと自信を持てばいいと思います。北朝鮮の核武装に対し
ては日本も核武装すると言って交渉すればいいのです。日本の核武装が出てくれ
ば、中国は介入せざるをえなくなる。そのようなプロセスを作ること、中国を介
入させることが大切です。中国の介入なしには、拉致問題も核問題も解決できな
いと思います。拉致犯罪は、核犯罪の解決の延長線上でしか解決できないのです。

 第2に、北朝鮮は今、市場化がどんどん進んでいますが、その中で情報の市場
を作らせなければならないということです。これはどういうことかというと、北
朝鮮では政権に対する忠誠心がどんどん低下し、儲けさえすればいいという人た
ちが増えています。その中で、拉致に関係する情報を売り買いできるようなこと
ができるようにする。偽者もたくさん出てくるでしょうが、そこでも何らかのヒ
ントを得ることができるということです。

 第3に、金正日とただ話し合いをするだけではだめなのです。甘い言葉だけを
言っているということは、例えて言えば、殺人者にもう一度殺人をするための道
具や力を与えるということにしかなりません。従ってアメとムチの両方が必要だ
と思います。ありがとうございました。

■国際セミナー「拉致被害者はなぜ生きていると言えるのか」レポート[3]

西岡力(救う会会長、東京基督教大学教授)

 今の張哲賢さんの発表に対して、韓国の専門家で、張さんがどういう人なのか
ということを一番よくご存知の洪●(●=榮の木を火に)先生にコメントをして
いただきます。

【コメント1】

洪●(ホン・ヒョン 桜美林大学客員教授)

 拉致については西岡さんが後で発表しますので、対日政策の基本姿勢、工作に
関する説明に対して3つの感想を申し上げます。

 今、金正日体制をどう捉えるべきかの問題で貴重な証言を聞きました。張さん
は多くの脱北者たち、いや北韓住民の殆どが知り得ない秘密をわれわれに教えて
くれました。

 私は、最初にソウルで張さんに会った時聞いた話を思い出します。張さんは北
を脱出して韓国に来たら、自分が生きてきた北韓とは全く違うもう一つの北があ
ることに驚いたと話しました。つまり、世の中には二つの北が存在するというこ
とです。

 韓国の北韓や「北韓学」の専門家たち‐主に「北韓学」教授たちですが、彼らが作
り上げた架空の北、つまり観念論の中の映画みたいな「にせものの北」が存在し、
しかも自由世界の多数の人が脱北者たちが言う北より、架空の作り上げた偽の北
の方を信じていることに愕然とし、憤りを感じたという話でした。

 張さんだけでありません。多くの脱北者が共通して嘆くことは北から来た自分
たちの話を信じてくれないということでした。

 小泉総理の平壌訪問はもう9年以上も前のことですし、金正日の当時の目論見
は失敗しましたが、今後金正日体制はもちろん、金正日のような野蛮な独裁者を
対する時にどうすればいいのかという非常に有用な情報があったと思います。今
の張さんの発表を聞いて、いわゆる専門家などは到底分からない、分析できない
平壌の秘密が分かります。特に、金正日体制の体質や行動基準、行動マニュアル
などを垣間見ることができた気がします。

 私がまず注目したのは、金正日は「外交も工作である」と言ったということです。
そして「対日政策」の立案や推進を外務省から統一戦線部取戻したという点です。
これは平壌側が対米交渉では外務省が前面に出て、党や統戦部を出さないのに、
日本や韓国に対しては出すということです。日本は、アメリカと違って、北で実
権を持っている労働党とやるのがいいんじゃないかという選択をする傾向があり
ます。戦略的観点から見ると、金正日が指定する北側の窓口はまさに工作機関で
す。彼らが指定する交渉の相手をそのまま呑んでいいのかということです。こう
いう根本的なことが気になります。

 特に、看過できないのは、日本政府を圧迫する目的で、メディアを動員した対
日宣伝扇動を強調したこと、統一戦線部が朝鮮総連と対南・対日心理戦基地を動
員した対日心理戦を展開したというくだりが私には引っ掛かります。これは日本
国内の裏切り勢力、北に内通する勢力が存在する、それが平壌の対日心理戦基地
だということです。まず朝鮮総連、もちろん社会党、自民党の中にまで、ありと
あらゆるところに心理戦基地が存在するのです。あきらかに優先順位では総連で
す。にも関わらず日本政府は、朝鮮高校に対して授業料無償化を進めている。話
を聞きながらこれは一体なんなのだろうか、と思いました。

 金正日とその家来たちは、明らかに失敗しました。日本の世論の反発を予想で
きなかった。そういう側面も確かにありますが、それは単純な間違いなのか。実
は、東西冷戦時代から、金正日は「日本の世論」も総連や社会党から自民党左派ま
であらゆる親北勢力を動員して北側が望む方向に日本の世論を引張ることができ
たという自信や慢心から間違った判断になったではないか、とも思います。

 そして、話を聞くと、金正日体制では基本的に党の中に内外の諸般の情勢を総
合的に分析し、戦略や対策を真剣に練る組織とシステムがあったということです
ね。これを忘れてはならないと思う。一種のNSC(国家安全保障会議)みたい
なものが金正日のまわりで機能していたということです。

 それから彼らは必死だった。もし失敗すれば、外務省のように金正日の信用を
失うだけでなく、それに関係した人は問責くらいでは終わらないんです。死ぬか
生きるかでやっているわけですから。私はこの話を聞いて、サラリーマンと戦士
の対決のような、つまり今テロとの戦争では自爆テロも辞さないような戦士集団
に対し、こちらは頭で常識的に論理を構成する。これでいいのかと思うのですね。
幸い間違った集団が、間違った価値やシステムで動いて、結果的に失敗したのが
日本や韓国には幸いだったのではないかという気がします。

 それから今一番問題なのは、私は6者協議では別の意見を持っていますが、北
側は核武装を通じて戦略的目標を達成しようとしていますね。この核武装は自分
の核武装だけでなく、アメリカと自由世界に敵対する国々へ核やミサイルを拡散
させています。これは単純な、自分の生き残りを超えての戦略を駆使しているわ
けです。

 このような相手に対し、日本は世界的な規模でのテロとの戦争への協力を表明
しながら、現実を見ますと、「戦後処理」という「形式論理」的課題、目標を出して、
地球上で最も危険な不良国家、文明社会を否定する代表的な失敗国家、「ならず
者国家」を持続させている。そして、この「ならず者国家」と喜んで国交正常化の
機会を窺う矛盾した態度を取っています。これは、私は矛盾だと思います。

 先ほど、金正日は、日・朝首脳会談は前払いなしには二度とやるな言ったとい
う証言がありましたが、今年も日本の総理が平壌訪問を密かに検討したという報
道がありました。

 今年、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンなどのアラブ社会の独裁体制
が崩壊しました。アラブの春は、独裁体制との「対話」でなく、多くの尊い命、多
くの犠牲を払って勝ち取ったものです。今の話を聞きながら、拉致被害者救出を、
「対話」だけでできるものだろうかと思いました。

 日本はそういう国々の民主化を歓迎しました。しかし、今年のニュースを見る
と、カダフィやウサーマ・ビン・ラディンが死ぬことで彼らの体制や悪事が終わ
りました。テロ国家との戦いは相手を殺すことです。これまで彼に虐殺された数
百万人の人々は、復讐を望んでいるのです。しかし、自由社会の多くの人々は、
死の代わりに、支援を言っています。金正日への最大の復讐は、そして北を支援
する最高の方法は、北に自由を与えることだと思います。

 先月、オウムのテログループに対して死刑が言い渡されました。オウムに対し
て死刑を言いながら、金正日体制の世襲を認めるという議論が、日本の立派な政
治家の方々の中で聞かれるのは、私は非常に矛盾だと思います。

 張さんが今日ここで多くのことを話す余裕はありませんでしたが、張さんは韓
国に来て3冊の本を書いています。90年代に金正日によって大量虐殺、人口の
15%が虐殺された時の悲惨な場面を目撃した詩集があります。「私の娘を100ウォ
ンで売ります」という詩集です。日本語版も出ています。

 それから自分が見た金正日の最高機密。これは叙事詩の形で、「金正日の最後
の女」というもので、金正日のもっとも隠密な私生活に関して告発しています。
私はそのために張さんの命が危険だと思います。

 それから今年は、自身の脱出記で「詩を抱いて江を渡った」という本を出しまし
た。間もなく日本語版が出ます。今日、張さんが言えなかったことがたくさん出
ています。ご関心のある方は是非読んでください。以上です。


◆【基調報告2 なぜ日本人拉致被害者は生きていると言えるのか】

西岡 今日のセミナーのテーマは、「なぜ日本人拉致被害者は生きていると言え
るのか」です。まず第1に、基本的なことですが、北朝鮮は「死亡」と通報した
8人について、たった1人についても、死亡の客観的証拠を出せていないという
ことを確認しておきたいです。

 このことは、我々は2002年からずっと言ってきましたが、日本政府も今は
同じ立場で、配布資料の日本政府が作成した、「北朝鮮側主張の問題点」パンフ
レットがあります。

 洪先生は、この程度ではだめだとおっしゃいますが、それでも日本政府が真っ
向から外国政府が言っていることについて反対するパンフレットを出したという
ことは、私は評価をしています。

 ある人に言わせると、西岡さんが書いていたことがずいぶん入っていますねと
いうことでした。事実については特許はありません。

 しかし、このパンフレットを出すまでには戦いがありました。私の報告に書い
てありますが、9年前の9月17日、外務省は家族会の人たちに、被害者全員の
消息が出てきたから、国会議員会館の記者の前から離れて、飯倉公館に来てくだ
さいと言って、バスまで準備しました。

 そして行ってみたら、「大切なことなので今慎重に確認作業をしています」と
2時間待たされた。そして一人ひとりの家族に、「お亡くなりになりました」と
断定形で伝えられた。

 しかし、確認作業はしていませんでした。確認作業はしていないで、「確認作
業をしています」と家族をだまして、平壌宣言のサインの時間まで家族会に記者
会見をさせないようにして死亡通告をしたのが外務省でした。田中均局長です。
交渉を優先する姿勢が日本政府にあった。被害者を助ける姿勢がなかった、とい
うことです。

 しかし、次の日に、安倍官房副長官が家族のところに来てくれて、「平壌で死
亡の確認はできていなかった」という事実を教えてくれた。それを受けて「死亡」
ではなく、「死亡と言われた人たち」ということに訂正せよとのキャンペーンを
次の日からすることができて、逆転することができた。

 そういう点では、北朝鮮は「失敗した」と言いましたが、彼らの戦略が間違っ
ていたのではなく、彼らはかなり緻密に、「8人死亡」を既成事実化することに
成功しつつあった。安倍副長官が訪朝団の中にいなかったら危なかった。

 キム・ヘギョンさんに会った外務省の高官は、家族のところに説明に来ないで、
その人はロンドンの大使館に勤務していたので、そのままロンドンに帰ろうとし
ていた。田中局長は、生きていた蓮池さん夫婦、地村さん夫婦に会った外務省の
幹部を家族のところに送らないで、イギリスに送ろうとしたのです。

 後日、蓮池さんと地村さんに聞きましたが、その外務省の幹部に会った時に、
自分たちは最初に、「両親は元気ですか」と聞いた、と。そしたら幹部は、「分
かりません」と答えた。そういう人を確認作業と称して、被害者に会わせたので
す。

 キム・ヘギョンさんと会った時、彼女はバトミントンのラケットを持参し「お
母さんのラケット」だと言ったのですが、それを借りてもこない、写真もとらな
い。それでは、そのラケットが本物かどうかもわからないわけです。そういう確
認作業とは言えない確認作業をやって、家族には死んだと通報した。

 家族がそれで納得していたら、先払いではなかったかもしれませんが、多額の
お金が金正日に行っていたかもしれない。戦ったからやっと踏みとどまれたし、
今ここまで来ることができたということです。「死亡」の根拠がなければ、生存
を前提にして助けるのは当り前です。

 今日もう一つ申し上げたいのは、私の報告の3ページにある表です。北朝鮮は
「死亡」の証拠を出せなかったわけですから、2002年の時点で、私たちは
「8人死亡」を信じていませんが、しかし、時間がどんどん経っています。

 私たちは、家族の人たちが高齢化していくのを目の前で見ていますが、平壌で
も同じ時間が過ぎています。被害者本人も高齢化しているということです。「表
1 拉致被害者の年齢」の22人は、日本政府認定の中で帰ってきていない12
人と、救う会が拉致だと思っている7人、曽我さんと同じ立場で脱走米兵と結婚
していた3人の女性をサンプルとして選んでみたものです。

 1番の久米さんは86歳です。日本政府認定の被害者です。一番若い人でも横
田めぐみさんの47歳です。この47歳という歳は、重い意味があります。ドイ
ナ・ブンベアさんというルーマニア人拉致被害者の方が、曽我さんと同じアパー
トに住んでいたのですが、癌で亡くなりました。曽我さんが看取っているので間
違いありません。その弟さんが東京にまで来て、この国際セミナーで訴えをしま
したが、ドイナさんが亡くなった歳が47歳です。

 ドイナさんが向こうに連れて行かれて亡くなった47歳という歳にめぐみさん
もなっている。それ以外の人たちは、みんなそれを超えているということです。

 そして寺越外雄さんは拉致された後、北朝鮮で病死されていますが、55歳で
した。55歳より下の方は、石岡さん、有本さん、横田さんと日本人被害者では
3人しかいません。石岡さんは54歳です。

「表2 拉致被害者の抑留年数」を見ると、抑留される年限が長くなればなるほ
ど、ストレスはたまり、病気になる可能性は高まるわけですが、先ほど言いまし
たルーマニアのドイナさんは、19年間抑留されて病死しました。次に抑留期間
が短いのは有本恵子さんの28年です。全員がドイナさんが病死した抑留期間を
はるかに超える長い間抑留され続けている。

 そういう点で、我々は時間との戦いです。生きている人を助けなければならな
い、生きていると思っていますが、しかし人間は不死身ではないということです。

 最後に、日本政府に申し上げたいこと、そして私たちが考えるべきことがあり
ます。このことはここで何回も私たちは話をしていますが、この政府作成のパン
フレットに載っていないことがあります。このパンフレットは、北朝鮮が「死亡」
という主張には根拠がないと言っています。そして北朝鮮は、「13人しか拉致
していない」と言っているが、もっと被害者がいると、具体的な根拠を挙げて反
論しています。

 それではなぜ、生きている人を、北朝鮮は死んだと言ったのか。張さんの話で
もあったように、金正日は拉致を認めるという指令を出したわけです。そして失
敗したわけです。しかしその時、家族会のメンバーの主要な人たちがみんな帰っ
てきていれば、特定失踪者問題調査会はまだできていませんでしたし、そこで一
段落になっていた可能性も高かったと思います。外国人拉致も明らかにならない
ままだったと思います。

 それなのになぜ彼らが生きている人を、遺骨もないのに死んだと言ったのか。
嘘には動機がある。彼らがなぜ嘘をつかなければならなかったかという理由につ
いてこのパンフレットには何も書いてないのです。

 外国の記者がよく私のところに取材に来ます。日本政府もずいぶん外国の記者
を呼んでくださっています。外国の記者は、拉致を認めたのに、なぜ生きている
人を死んだというような面倒くさいことをしたんだ、よく分からない、という質
問をよく受けます。

 まさにそれが張さんの話の中にもヒントがありましたが、統一戦線部を含む北
朝鮮の工作部署は、拉致を部分的に認めても全体に広がってしまい、金正日の権
威に関わるから反対したと張さんのペーパーに書いてあります。金正日の権威と
は何か。金正日の責任は認められないということです。

 一番分かりやすいのが大韓機爆破事件です。田口八重子さん拉致は認めました
が、未だに大韓機爆破事件は「でっち上げ」と言っています。朝鮮総連の学校の
教科書に、「でっち上げ」と書いてあります。その「でっち上げ」と書いてある
ところに日本の全国の地方自治団体が合計で8億円以上の支援をしていた。去年
からそれを問題になって、1億円以上は減ったがそれでも6億5千万円以上が支援
された。民主党政権が高校無償化を実施し、それを朝鮮学校にも適用するかどう
か文部科学省で、その教科書の内容などを含めて審査されているということです。

 田口さんが帰ってきて金賢姫さんと抱き合って、「あの時、日本人化教育のた
め招待所で一緒に暮らした20か月はこうだったね」と言い合えば、金賢姫さん
は本物だということが満天下に示される。金賢姫さんは、大韓機爆破事件は金正
日の直筆のサインがある命令書があったと言っています。金正日が115人殺せ
と命令したんです。金正日が日本人のパスポートを持って、日本人に成り代わっ
て115人殺せと命令した。

 ではなぜ、金賢姫に日本人に成り代われと命令できたのか。拉致していたこと
を知っていたからです。拉致して、張さんが言った「現地化」させていたことを
知っていたからです。

 1976年に金正日が、「工作員の現地化を工作員教育の一つの柱にしなさい」
という指令を出します。そして77年、78年に全世界で拉致が起きます。今、
世界12か国で拉致があるとほぼ確認されていますが、日韓を除く10か国は、
すべて77年、78年に拉致が起きています。

 昨年、東京に来た金賢姫さんにこの金正日の現地化指令のことを私が直接聞き
ました。そしたら、「教官からよく聞いていました」、「私が1期生です」と言
いました。76年に現地化指令があり、77、78年にそのための教官拉致があ
り、金賢姫は80年に、平壌外国語大学から工作員にされたんです。

 彼女の同期生は8人いました。もう一人の女性。淑姫がめぐみさんから日本語
を勉強した。また、金賢姫さんに、マカオで拉致された中国人の写真を見せたら、
「私の中国語の先生だ」と言いました。中国人化教育も彼女は受けておいたんで
す。マカオの孔(コン)さんも78年に拉致されています。

 統一戦線部では現地化の標語が掲げられていたということです。今日の話で深
刻なのは、混血児を意図的に作って、その子どもをスパイに使うという「シバジ」
という「現地化」もあったという衝撃的な事実です。

 また最近話題になっている「市民の党」の問題ですが、あれは、よど号グルー
プを結婚させ、子どもたちを「日本革命村」で洗脳したわけです。日本人だけれ
ども、頭の中は主体思想で教育して、日本に戻して、その中の一人を三鷹市議会
選挙に立候補させた。それも「現地化」の一環です。

 そういうことすさまじいことを金正日の命令でしていたを認められないから、
生きている人を死んだと言った。このことを、この国際セミナーで我々が様々な
証拠証言を示しつつ主張してきていることです。つまり、「死んだ」と言ったこ
とは、金正日の権威を守るという体制の根幹と関わることです。簡単に交渉だけ
で帰ってくる問題ではない。

 お金を貰っても、金正日がテロリストだったということを認められるか。それ
は、金正日が、「俺はテロリストと言ってもいいぞ」と言わない限りできません。
そうでないと収容所送りです。本人が自分はテロリストだということを認めると
いう指示をだすのかどうか。

 自分が今殺されるかどうか、このままいけば政権が倒されるかもしれないとい
うところまで追い込まれなければ30年前の自分の犯罪を認めるところまでいか
ない。たた話し合いをするのではなくて、絶対に拉致問題で譲歩しないというき
ちんとした日本の姿勢ができた後、拉致はテロですから、テロには譲歩しないと
いう姿勢を作って立ち向かうしかない。

 我々は体制の根幹と立ち向かわざるを得ないところに置かれている。洪先生は
日本が傍観者的ではないかとおっしゃいましたが、傍観者になろうと思っても、
めぐみさんたちを本当に取戻そうと思うとなれないという構造がある。金正日が
テロリストであるということを彼らに認めさせない限り、めぐみさんたち「死ん
だ」と言われた人たちを生き返らすことはできない。このような北朝鮮の体制の
根幹と関わる構造的な問題がある。

 これは我々がずっと言ってきたことですが、別の意見でもいいと思いますし、
国会の中でも議論していただければいいと思いますが、なぜ生きてる人を死んだ
と北が言ったのか。その動機が分からなければ、対策は打てないと思います。そ
この議論をしたいということが今日のセミナーの一つの目的でした。以上です。

【コメント2】

惠谷 治(ジャーナリスト)

 西岡さんが、北が「死んだ」と言ったのは金正日の権威を守るためとおっしゃ
いましたが、もう一つ、いわゆる秘密を守ることがあると思います。北朝鮮は秘
密だらけです。そのために「死んだ」と言っているわけですが、一方で、わが国
の高名なジャーナリストも平気でテレビで「死んだ」と言って物議をかもしまし
た。

 北朝鮮に対する一般的なイメージ、つまり独裁国家で何でもあり、金正日の気
分一つで生死が決まる。これも事実です。ですから、被害者が死んだと金正日が
言ったと。先ほどの話も含めて、午前中にはそんなつもりではなかったのに午後
にそう言った(拉致を認めた)ことは十分に考えられます。

 しかし、過去の事例で言いますと、金正日の側近がおべんちゃらを言う。そう
すると、「こいつはもう銃殺しろ」と。そういうことを平気でやる男です。

 他方、日本ではあまり伝わることはありませんが、崔銀姫さんと申相玉監督が
拉致されました。日本でも二巻にわたる本が出ていますが、これを読んでも、拉
致被害者を如何に大切に扱っているか。申相玉監督は脱走しました。そうすると、
ある意味で懲罰房的な時間もありますが、それに対して殺してなんかいません。

 あるいは、もちろん北朝鮮は8人についてガス中毒だの交通事故だのと訳の分
からない理由を付けていますが、これは政治的死亡の時、北ではよく使われるも
のなので、拉致被害者に対してもそういう理由を作ったのだろうと思います。

 拉致被害者というのは金正日の命令で高額の資金と厖大な人的資源を使って迎
え入れたゲストなんです。マグジャビといって、手当たり次第に連れて来いとい
う時期もありましたが、他方で申相玉さんのように、「あいつを連れて来い」と
いう命令もあります。

 しかし、「あいつ」とまではいかなくても、「若い娘を連れて来い」あるいは、
「こういう学者を連れて来い」という命令もある。とにかく、金正日が命令した
被害者を絶対に殺すわけがないんです。殺すというのは死亡させることですから、
これは管理責任が問われます。

 例えば今日ご家族がお出でですが、寺越さんのようなケースは遭遇拉致です。
偶然に出会って、寺越昭二さんは抵抗して殺さ
  
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