02__北朝鮮が拉致を認めたのはアメリカのおかげ
2002年9月の日朝会談で拉致を認めたのも、私は金正日がアメリカの軍事力に怯えた結果だと考えている。小泉訪朝に先立つ2002年1月に、ブッシュ大統領は一般教書演説で「悪の枢軸発言」を行ない、イラク、イラン、北朝鮮の三国を「悪の枢軸」と呼んだ。なかでも北朝鮮の名は第一番目に挙げられ、その理由は「人民を飢えさせながら、大量破壊兵器とミサイルで武装している」というものであった。これによって金正日は、「アメリカが武力攻撃してくるかもしれない」と怯えるようになったのである。
このとき金正日が考えたのが、アメリカを孤立化させることだった。アメリカが経済制裁を行なっても、日本や韓国がこれに同調しなければ、金正日政権は一息つくことができる。そこで日本を懐柔するため、拉致を認め、被害者の消息を出すことにした。北朝鮮が拉致を認めて謝罪したのは、アメリカの経済制裁から自らを守るための一種の賭けだったのである。そう考えれば、当時の日本がコメ支援を行なっていなかったにもかかわらず、拉致を認めた理由も納得できる。
結局、金正日政権のような軍事独裁テロ政権が動くのは、コメ支援のような"太陽"ではなく、「経済制裁されるかもしれない」という"北風"が吹いたときであり、「こちらの国益を侵すことをやめないなら、あなたの国益にダメージを与える」という警告を発することこそが重要なのである。
しかしながら今回の小泉訪朝では、アメだけを与えた2000年の状況に近いかたちになってしまった。かりに「船舶法案」が通過していない状況でも改正外為法を発動して、拉致を理由に贅沢食材の輸出禁止を行なうなど、ごく低いレベルでの制裁をかけておくべきであった。
北朝鮮国民に被害が及ばないやり方で、経済制裁を行なう方法はいくらでもある。たとえばアサリやハマグリといった貝類の輸入の禁止である。いま北朝鮮では、海岸で採れる貝類を子どもたちに強制的に採らせて、日本など向けの輸出に回している。日本が輸入をやめれば、この貝類は採った子どもたちの口に入る。これなら、経済制裁によってある種の人道支援が行なえるというかたちになる。
拉致問題が全面解決しないことを理由に、こうした低レベルの経済制裁を行ない、そのうえで交渉すれば日本は強い態度に出られる。横田めぐみさんら「未帰還者」10人について正しい情報を出さないなら、さらに高いレベルの制裁を行なう、といえるわけで、いわば2002年にアメリカが「悪の枢軸発言」をしたときのような状況を日本一国でつくりだせたのである。これならば拉致問題も解決に向け大きく進展した可能性は高い。そう思うと重ね重ね、今回の拙速すぎる小泉首相の訪朝は残念でならない。