救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

北朝鮮の食糧農業2017/18



2.2017/18年度の食糧生産量



 今回公表された2017/18年度の食糧生産量は以下の通り。


 FAOは、米の生産量は籾付重で、食糧需給では精米重で報告している。また、北朝鮮ではメイズという飼料用とうもろこしが一般人民の主食となっているが、これはかつて製粉重85%としていたのを現在は100%換算に、つまり多めに報告している。さらに大豆はカロリーが高いとの理由で重量を20%増しにし、じゃが芋は穀物ではないがカロリーで見ると重量の25%相当として計上している。
 そのため読者に大変分かりにくくしていると同時に、国際社会に支援を訴える時にそれなりの不足量が出るように工夫しているように見える。
 以下に、各作物について見ていきたい。

◆米は報告値157万トンの半分程度か
 FAOは、2017/18年度の米の生産量を、籾付重では前年度より15.31万トン少ない計238.33万トン、精米後では前年度より10.1万トン少ない157.3万トンと報告した。
 日本や韓国では籾殻のついた米を玄米に脱穀すると重量が約80%になり、玄米を精米すると玄米重の約90%になる。従って籾殻付を精米にすると72%重になる。国連機関は脱穀機、籾摺機、精米機の劣化を理由に、北朝鮮の米に関しては66%重としている。これで籾付238.33万トンが精米157.3万トンになる。
 なお、国連機関は従来籾付きに対する精米値は65%としてきたが、2012/13年度から66%に変更した。
 ちなみに、稲穂から籾を取り離すのが脱穀、籾から籾殻を取り除き玄米にするのが籾摺り、玄米から表皮や胚芽を取り離すのが精米である。日本では稲刈りから脱穀、水分量15%程度まで乾燥することをコンバインで処理するが、北朝鮮では手作業で、乾燥は倉庫での自然乾燥を行っている。
 世界の米の貿易では、質が劣化しないよう、精米する前の玄米量で計量し、取引きされる。統計も玄米重でなされる。国連機関が北朝鮮の米の収穫量を精米後の数値で計上するのは、人道支援を行うだけに、実際に人々の口に入る量が目安になるからと説明しているが、食糧不足を大きく見せることにもなる。
 では北朝鮮の玄米の生産量はどのくらいか。籾摺りの過程でロスが出ないと仮定して、籾付き238.33万トン×80%、玄米で190.66万トンになる。実際はロスが出るのでもっと少ない。10アール当たりの反収は約407kg(約6.8俵)になる。日本の2017年産米の平均反収は玄米で534kg(8.9俵)なので約76%に相当する。
 しかし、北朝鮮米で一般的な品種「統一」の種籾を持ち帰り、新潟県農業試験場で育てた結果が「This is 読売」(1998年8月号)に掲載されたことがある。結果は日本の半分もとれなかったというものだった。
 北朝鮮と比べて、土壌、気温、日射量、肥料等あらゆる面で最高の条件が整った日本の農業試験場で栽培して半分も採れないということは、同じ品種を北朝鮮で栽培すれば日本の3分の1程度しか採れないと見るべきだろう。従って、反収407kgは著しく虚偽の数値となる。実態は玄米で反収約3俵(180kg)程度であろう。
 「This is 読売」の記事を見ると、北朝鮮の米は、見た目はすくすく成長しているように見えるが、盛んに枝分かれして無駄な養分を吸い取っていたという。品種改良ができていないし、肥料も無駄になる。
 葉は3倍もあるのに穂の数は日本と同じ。しかも、米の30%は未成熟で日本では規格外の米だった。小粒な米が多く、粒がそろっていないのである。
 また、精米すると米粒が30%も割れて吹き飛んでしまう。これを胴割れという。米に筋が入っていて、そこから割れる品種である。さらにすべての稲でいもち病が発生した。いずれも品種改良がなされていないことを示している。
 国連機関は北朝鮮農業を視察する職員に米の専門家を入れていないので、見た目では米の成長状態を未だに良好と見ているのだろうか。筆者も見たが、国連機関は特定の水田で1m四方を区切って収穫量を見る「坪刈り」をしているので、収穫量がどの程度かは分かっている筈である。
 しかし、北朝鮮から撤退させられるのを避けるために農業省の報告をそのまま書いているとしか思えない。国連機関にとっては、弱者への支援さえできれば、農業省の報告などどうでもいいような報告と言えよう。しかし、国連機関が支援した食糧が市場に出回るなど、弱者から回収されていると度々報告されている。
 北朝鮮の米づくりの環境について見ると、米は高温を好み、大量の水が必要だが、北朝鮮は日照量が少なく、平均気温が低く、雨も少ない。韓国の気象庁が2012年1月に発表した、「北朝鮮気象30年報」によると、北朝鮮の年平均気温は8.5度で韓国より4度低い。日本の年平均気温は15度で、韓国は12.5度、北朝鮮は8.5度なので、米作りには厳しい環境であることが分かる。
 また、北朝鮮の8月の平均気温は22.6度でしかない。年間降水量は919.7ミリ。なお、韓国に近い福岡県博多市の年間平均気温は17.1度で北朝鮮より8.6度高く、年間降水量は1,774ミリで北朝鮮の倍近くある。雪国の新潟市の場合、年平均気温は13.9 ℃で北朝鮮より5.4度高く、年間降水量は1,821ミリ。
 さらに北朝鮮の農民は稲束を稲架(はさ)にかけて自然乾燥しない。山ははげ山になっており、稲架にする竹や木がないのだが、それよりも乾燥すると水分が減ってノルマを達成できないから水分を含んだまま出荷してきた。まさに水増しで、当然みかけの重量が重くなるわけである。
 2014年のFAOの「調査」では、米では収穫後ロスが15.56%発生すると報告された。メイズは17%、大麦・小麦、その他の穀物は16.5%とされていた。
 収穫後ロスは、米の籾付を玄米にする籾摺りの過程で、さらに玄米を精米にする過程で、さらに倉庫に保管している過程で24.5万トン発生する。国連機関は機械等の劣化によるものとしている。また次年度用種子5万トンも差し引くことになる。米の生産量は、籾付重238.33万トンが精米で157.3万トンになり、収穫後ロス24.5万トン、種子用5万トンを差し引くと食用米は152.5万トンになる。
 倉庫に保管中のロスでは、虫やネズミに食べられたり、頭の黒いネズミに盗まれれたりする。北朝鮮では倉庫の管理人などの特権で、かなりの食糧が盗まれているらしいが、これはロスではあるが食べられるロスである。
 さらに北朝鮮の食糧倉庫には冷凍設備がなく(あっても電気が1日4時間程度しかこないので使えない)、倉庫内で「自然乾燥」させている。倉庫に運ばれた穀物は水分を多く含んでいるため、自然乾燥すると、むれてかびが付いたり、腐ったりしてロスが出る。
 なお、かつて日本等から米の支援が行われたが、「朝鮮米と中国米は砂が入っているが、日本米は入っていないのですぐ分かる」と脱北者から聞いた。米に砂が入っている国の統計は信用できない。
 また朝鮮半島の土壌は花崗岩が風化してできたものでケイ酸が多く、ケイ酸が多い土はマグネシウム、ナトリウム、カリウム等の微量元素をあまり含まないという特徴があり、この特徴は韓国より北朝鮮に行くほど強い。またケイ酸が多いと、植物に必要な成分を吸着保持する力が弱く、水分保持能力も少なく、有機物も吸着保持しにくい。つまり北朝鮮の土壌は元々生産性が低い。
 北朝鮮では人民に人糞の提出が義務づけられ、堆肥(窒素肥料)が作られているが、北朝鮮には堆肥づくりに必要な草等の有機物がほとんどない。北朝鮮では昔から、少しでも空き地があればすべて何らかの作物を誰かが植えて搾取に対抗してきた。だから雑草がないのである。
 日本では窒素肥料成分1に対してリン酸肥料は1またはやや多め、カリ肥料は1より多めに与えるが、今回のFAOの報告では、2017年の全国の水田に対する施肥量は、窒素20.5%含有肥料が60万トン、燐酸17%含有が1万トン、カリ48-62%含有が2千トンと窒素肥料に偏っている。これも収穫減の原因である。
 以上のような農業環境では農業生産は大変難しい。日本の平均生産量の76%も採れたという報告は全く信用できない。朝鮮半島は元々南半部が穀倉地帯で、食糧を南から北に送っていたことを考えると、北朝鮮だけで充分な食糧を確保するのは、今後もかなり難しいだろう。

◆メイズの収量も報告の半分程度
 北朝鮮人民の主食として栽培されているメイズはとうもろこしの品種の中のデントコーン種で、一般には飼料用穀物として栽培されている。食用のスイートコーンより収穫量が多いことから、北朝鮮で食用とされたようだ。粘り気が強く、食べられなくはないが、糖度は大根程度でおいしいとはいえない。まさに北朝鮮人民の主食は餌であり、大半の人々の楽しみを奪う人権蹂躙が長く行われてきたのである。
 今期のメイズは、収量が219.98万トン、反収4.3t/haと報告された。その内、飼料に11万トンが使われ、種子に7万トンが使われる。メイズの収穫後ロスは17%とされるので、37.4万トンがロスとして失われ、残りが164.6万トンとなる。
 北朝鮮では農場に計量器がないため、メイズも収穫後乾燥せずに一袋何kgと計量する。その中にはメイズの芯や皮、そして葉、砂などもノルマ達成のために若干入れられる。そうして作られた数字が219.98万トン、反収4.3t/haなのである。北朝鮮の食糧統計はすべて乾燥が不十分なまま計量されているが、国連機関は北朝鮮当局の報告値をそのまま計上してきた。
 収穫後、生のメイズの皮をはぎ、吊るして自然乾燥すると、65〜70%もある水分を10%台まで少なくすることができる。日本では機械的に乾燥するので、粉末化する際、水分をほぼ0%にできるが、北朝鮮では乾燥機がほとんどなく、あっても電気が不足し機械的な乾燥はできない。
 メイズを脱穀して袋に詰め、倉庫で自然乾燥させるのが北朝鮮での一般的な乾燥法である。この間に水分が抜け、生産量が大幅に減少する。残存水分割合15%とすると、50〜55%も重量が減り、重量は約半分以下になる。メイズは北朝鮮で水増しが最も多い作物である。
 メイズはそのまま茹でて食べると消化がよくないので、製粉化するが、その過程で皮膜の除去と加工上のロスが出る。2008年までの国連機関の報告では、製粉値を85%(ロス15%)としており、その分生産量が少なくなっていた。国連機関はおかしなことに、その後ロスは出ないとして重量の100%を計上している。これは国連機関による水増しである。
 とうもろこしは水分が多い作物で、例えばスイートコーンは水分が77%もある。スイートコーンはそのまま食べるので水分が多くてもいいが、北朝鮮のメイズは粉末にしたものを調理して食べる。乾燥するとさらに収量が減り、国連報告の半分以下になるわけである。
 さらに倉庫で貯蔵する際に、水分を含んだメイズは、倉庫内で蒸れてカビが発生し、虫害やねずみ等の害でロスも出る。国連機関はメイズの収穫後ロスを17%としている。
 とうもろこしは比較的連作障害が起きにくい作物ではあるが、同じ土地に何十年も同じ作物を植え続ければ、肥料の大食漢であるだけに当然連作障害が起きる。しかし、北朝鮮独特の「主体農業」では毎年同じ土地に同じものを作り続けなければならず、輪作など農民の主体的な工夫の余地はない。従ってメイズに必要な肥料や微量元素が集中的に失われ、生産量が極端に悪くなるのである。
 従って220万トン収穫されたと報告されたが、実態は100万トン以下であろう。
 なお、客土による効果がごく一部に見られたこともあった。北朝鮮が1995年に「大洪水」による被害を訴え、国際社会に初めて支援を訴えた年、筆者は北朝鮮に入り、黄海北道銀波郡の銀波橋が崩壊したのを目撃した。その2年後に再び銀波橋を訪れた際、橋のたもと付近は護岸工事が行われており、その脇に植えられていたメイズは穂軸が40cmもあった。これは客土による効果と考えられる。メイズは普通穂軸が40cm程度になる品種だが、北朝鮮の畑に植えられているメイズは、どこで見ても、25cm程度であった。連作の結果、収量が極端に落ちたのである。
 日本で普通に食べられるとうもろこしはスイートコーンで、穂軸が25cmくらいになる。もしこれを北朝鮮で植えていたら、収量はさらに少なくなるので、北朝鮮がメイズのデントコーン種を使ってきた理由はそこにあるだろう。
 さらに、北朝鮮ではコメだけでなく、メイズも3倍密植している。同じ土地に3倍もの苗を植えれば風通し、日照、虫害など問題が起きる。土への日当たりがよくないとかびがはえたり、また肥料も多く与えなければならない。加えて、種子6.2万トンの内4万トン程度は植える必要のない無駄になる。
 またトウモロコシには大量の水が不可欠である。旱魃が発生するとかなりの被害が出る。2017年夏は「2001年以来の旱魃」と国連機関は支援を訴えたが、食糧生産量はほぼ平年並みだった。今年も朝鮮労働党の機関紙、「労働新聞」8月2日付は、「記録的猛暑で農作物が打撃を受けている」と報道した。畑は水田と異なり、灌漑用ポンプで水を送ることも容易でない。人力を総動員しても畑作にはあまり効果的ではない筈なのに平年並みだった。
 北朝鮮の農業科学院出身の脱北者イ・ミンボク氏は、「北朝鮮は想像を超えた閉鎖的な国であるため、どんな専門機関であっても食糧問題に関しては正確な数値を予測できない。明確な分析がなされないまま、北朝鮮の統計に頼って数値を予測することは、北朝鮮の意図に巻き込まれる危険性がある」(「デイリーNK」2012.11.15)と指摘している。
 これについてはかつて金日成も水産部門の会議で次のように述べたことがある。「私が1973年に農業を指導した当時、農業部門には正確な統計数字がありませんでした。私に報告される党中央委員会の数字、政務院の数字、農業委員会の数字、中央統計局の数字がそれぞれみな違っていました」。おそらく今も正確な数字はないというのが実態だろう。
 なお、2017年に脱北した北朝鮮兵士の胃袋からトウモロコシの芯が見つかっている(ロイター2017.11.20)。兵士でさえ、それほど栄養不足になっているのである。また、「飢えた」軍隊が、農家から食糧を奪い取る事件も多発している(米華字メディア「多維新聞」2018.01.24)。
 米政府系の「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」2018.02.06によると、「深刻な食糧不足で餓死者が相次いでいる」とのことである。「貧富の差が拡大し、いくら働いても食料を買うことができない層が出現」しているという。
 これらのことを考え合わせると、どう考えても実際の収穫量は報告値219.98万トンの半分以下、100万トン程度になる。

◆じゃが芋の収量ももっと少ない
 じゃが芋の2017/18年度の生産量は、47.33万トンと報告された。実際は180.92万トンであったが、国連機関はカロリー面で25%の換算率が妥当として、じゃが芋の穀物換算率を25%としている。報告している。反収は11.8トン/haになる。
 この内、飼料に2万トン、種子が8万トン必要で、収穫後ロスが7.1万トン発生するので、食糧になるのは30.2万トンとなる。
 筆者は90年代後半に、北朝鮮農業科学院のじゃが芋の専門家から、「北朝鮮では土壌にウイルスがあるので、10トン/haしかとれない」、「外国の大きな種芋を植えても小さいじゃが芋しかとれない」と聞いている。これは表向きの話で、日本でも10トン/haとれれば多い方で、実態ははるかに少ないはずだ。
 じゃが芋は1995年に国連機関が北朝鮮に支援に入って調査して以来、二毛作の候補として勧め、種芋を送るなどしてきているだけに、北朝鮮の報告通りに計上したのではないか。

◆傾斜地・自留地生産を外し生産量を少なめに見せた
 2013/14年度から2017/18年度までのの食糧生産量を並べてみたのが下記の表である。


 自留地は宅地前の農地で家族が自由に栽培できる農地である。FAOはこれまで、自留地は02/03年度から、傾斜地は03/04年度からそれぞれの生産量を報告してきたが、自留地は2014/15年度から、傾斜地は2017/18年度から外された。その結果、不足量が多くなり、支援必要量が多めに見えることになった。これは北朝鮮への迎合としか思えない。
 なお国連機関は、実際の収穫量を算定するため、2002年度報告から自留地における食糧生産を約5万トンで追加し、09/10年から7.5万トンとしてきた。傾斜地における食糧生産は03/04年度5.5万トンで追加し、09/10年から15万トンに、11/12年度から22万トン前後としてきた。これらは、不足量を産出するには不可欠な数値であるが、政府の配給の対象にはならないので、別枠で計上し、不足量の算定には加えてきたものであるが、それが外されることになったのである。
 世界食糧計画(WFP)が2013年7月に調査した結果では、北朝鮮人民の66%が自留地を持っているという。北朝鮮の農地でもっとも生産性が高い自留地をなぜ外したのか。また、70%が自宅で家畜を飼い、89%が山菜の採取を行っているという。余剰分は市場で売って現金収入を得るためである。
 北朝鮮の自留地は、農村に居住する住民一軒当たり30坪と法律に決められているが、筆者が1990年代後半に見た自留地はほとんど20坪程度であった。
 しかし、協同農場と比べて自留地の作物ははるかに生産量が高いことを目視することができた。協同農場での労働は苦役に等しいので可能な限り仕事をしている振りをして疲労しないよう努めているが、自留地の生産はすべて家族の食糧となるので、力の入れ方がまるで異なるという。
 また可能な限り肥料を自前で作る努力をしたり、より品質の高い種子を選別して次年度に使うなど、創意工夫もなされている。北朝鮮の農業は主体農法によってなされていると言うが、自留地こそ主体的な農業がある程度実現しているのである。しかし、これまで自留地について国連機関は、協同農場の生産量より低い反収で報告してきている。
 実は北朝鮮では自留地の畑作の反収が協同農場の反収よりどの作物も高い。そのことを国連機関は理解はしているが、北朝鮮当局の要請に屈しているようだ。今年度の不足量は約65万トンとされたが、自留地と傾斜地を含めていれば不足量は約35万トンにしかならない。自留地の生産量は報告値よりもっと多いだろう。またかつては北朝鮮政府が自ら輸入して不足量の一部を補っており、その量は30万トン程度を見積もっていたが、今期は15万トンにして不足量を多く見せている。
 中国ではかつて改革開放政策に転じ、農地の使用を家族単位とすることを認めてから食糧生産量が飛躍的に増加した。中国の自留地は北朝鮮より広く、以前から耕地面積の約5%が自留地だったが、北朝鮮の農地は約200万haの内、傾斜地55万haを除外すると145万haになる。自留地2.5万haは、その1.7%程度にしかならない。自留地が一番生産性が高いのだから、自留地の面積を少し増やすだけで、国連機関が訴える不足量などすぐに改善できるだろう。
 問題は、それだけでは北朝鮮の食糧問題は改善しないということだ。なぜなら、国連機関の報告は、北朝鮮農業省の報告のままに実態の約2倍の収穫があるように公表しているからだ。
 国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は2018年5月15日、ソウルで記者会見し、「北朝鮮では年間約100万〜200万トンの食料が不足し、1990年代のような深刻な飢饉ではないが、栄養不足が依然として続いている」と述べている。北朝鮮当局の国連機関に対する報告を疑っており、真実を知っているのではないかとも思われる会見であった。
 北朝鮮で家族単位の農業が実現すれば、北朝鮮の食糧問題はかなり改善される。北朝鮮をそのように仕向けることこそが、国連機関の北朝鮮人民への真の人道支援となるだろう。しかし、国連機関は、当事国の政治問題には一切関与しないとしてきた。本当にその方針で真の人道支援ができるのだろうか。

◆傾斜地の畑作は収奪への抵抗だった
 傾斜地栽培は山腹の歴史的な隠し畑で、古くから中央集権制による収奪への抵抗の一つとしてなされてきたものである。
 北朝鮮の山は、北部の高山地帯を除き、ほとんど木がなくはげ山になっている。「韓国のアカマツの森林とはげ山の風景は、人間がくり返し森林を伐採した結果形成されたことが明らかとなった。そして、アカマツの優先する風景は、すでに6,500年前に始まっていたことも明らかとなった」とのことである。(安田喜憲他「韓国における環境変遷史と農耕の起源」文部省海外学術調査報告1980)。
 現在の北朝鮮では木がない山の稜線がはっきり見える。傾斜地にはほとんど土壌がなく生産性は極めて低いが、それでも生きるために傾斜地での栽培を止めるわけにはいかなかったのである。
 筆者が見た傾斜地は土壌が1センチ程度しかないものが多かった。北部の一部高山地域を除き、全土に300m程度の岩山が連なり、山と山の間に傾斜地があり、その下に小さな畑があり、水田稲作が可能な所は畑の下に2枚か3枚の水田がある。一番下に道路がある。これが北朝鮮の風景である。
 北朝鮮では傾斜16度(かつては15度)まで畑作が許されるが、実際にはそれより上も作物が植えられている。それより上でも山には木がほとんどない。今にも転げ落ちそうな大小の岩が傾斜地に留まっているのが見える。また、木がある山でも直径15cm以上の木はほとんどない。土が浅いからである。
 2008年の人口センサス調査の時、いくつもの追加調査がなされたが、「暖房や料理の木材依存度が5割弱ある」と報告された。北朝鮮では木材は貴重品で、人民が燃料に使える余地はほとんどないのに不思議な調査結果である。その他、「児童の学校出席率100%」等、多くの子どもたちが食べられるものを探して町に出ているのに、信じられないことが多数報告された。
 雨が降った時などに傾斜地の大きな岩が道路まで転げ落ちてくる。北朝鮮では対向車線に自動車が走っていることはまれなので、転がり落ちた岩を避けるには、中央分離帯がない道路を対向車線に入ってよけるしかない。
 また、道路は舗装されていても大きな穴があいている所があるので、この場合も対向車線に入る。北朝鮮における交通事故はこの岩や穴によって起きることが多いのではないか。開いた穴を塞ぐために10人くらいの人々が集まって、のんびりと手作業している所を何度か見たことがある。
 北朝鮮の山には縦と横に線が見える。縦の線は水が流れた跡で、横の線は土留めの跡である。北朝鮮の農民は昔から、過度の収奪に対抗して傾斜地に作物を植えるという対応をしてきた。
 傾斜地は2004年の報告で初めて登場し、7.5万ha、5.5万トン(メイズとじゃが芋のみ)、反収73.3kg/10aであったが、2008年の報告で30万haに急増し、この年のみ製粉値75%を適用して11.3万トンとした(反収37.6kg/10a)。さらに、2012年の報告で50万haに急増した。
 メイズの製粉値は2009年の報告で100%に戻し、2012年の報告では、傾斜地の面積を55万haに増やし、収量22万トンとした(反収40 kg/10a)。
 これは、EUの食料安全保障局がグーグルアースを使って調べ、傾斜地面積は約55万haとしたのを受けて変更したものである。2004年の報告の5.5万トンが、いつのまにか22万トンに化けてしまったのであるが、このようななデータを元に支援を訴えてきたということになる。そして、2018年の報告で消えてしまった。
 要するに国連機関の報告は、国際社会の支援を訴えるためだけに作られるものであり、作成側のさじ加減でいかようにも変更できるということである。つまり、調査基準が毎回異なり、支援される側の実態を正確に報告したデータではない。
 そもそも国連機関が食糧危機として北朝鮮の支援に入った1995年には米とメイズしか報告していなかった(表3)。翌年から二毛作を奨励し、じゃが芋の種芋と麦の種を支援し始め、1999/00年度からじゃが芋、雑穀を報告値に追加した。2009年には雑穀から大豆を独立した項目にした上で、カロリーが高いという理由で120%重で報告するようになった。
 さらに、2008/09年までは国連機関はメイズの製粉などのロスがあるとして収穫量の85%重を生産量として公表してきたが、現在は100%に変更した。この時は生産量を増やして、支援量を減らしたのである。あるいは国際社会への期待度が減ったので、支援量を減らしたのかもしれない。
 ちなみに、かつては米の精米重は66%、雑穀は92%、麦類92%、傾斜地・自留地75%だったが、現在はメイズ、雑穀、麦類、傾斜地・自留地は100%としている。誠に摩訶不思議な報告である。



目次
1.はじめに
2.2017/18年度の食糧生産量
  ◆米は報告値157万トンの半分程度か
  ◆メイズの収量も報告の半分程度
  ◆じゃが芋の収量ももっと少ない
  ◆傾斜地・自留地生産を外し生産量を少なめに見せた
  ◆傾斜地の畑作は収奪への抵抗だった
3.北朝鮮は人口を水増して一人当たり食糧を少なく見せてきた
  ◆1995年から1998年まで300万人が餓死
  ◆人口と食糧生産量を水増し報告する理由
4.基準が異なる生産量報告で支援を訴え
  ◆国連機関は北朝鮮農業省の報告が過大であると分かっていた
5.国連機関の報告は水増し−北朝鮮の食糧生産
6.北朝鮮への食糧支援について
  
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