救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」全報告



◆日朝協議の現状と北朝鮮の状況


西岡 力(救う会会長、国際基督教大学教授)
1.日本代表の平壌訪問の危険性
 北朝鮮は「夏の終わりから秋の初め」と約束していた1回目の拉致被害者等に関する調査報告を今に至るも実行していない。宋日昊大使は「調査は初期段階で、拉致被害者について具体的な報告は出来ない。どの様な調査が行われているのかは、自分は答えられない。聞きたければ平壌に来て特別調査委員会と面会せよ」と開き直った。
 外務省は宋日昊大使の勧めに従い、すぐに訪朝団を送ろうとした。それに対して拉致被害者家族会と支援組織救う会などは、危険性を指摘して反対した。
 第1に、特別調査委員会という存在を過度に日本が評価してしまう危険があった。特別調査委員会なる組織は拉致被害者に関して調査をしていない、あるいはする必要がない。なぜなら、拉致被害者は厳重な管理の下に置かれており、すでに現状に関するリストが金正恩のもとにあるからだ。それなのに、特別調査委員会を訪問し、その調査方式などを聞き取ると、あたかも同委員会が拉致被害者を調査していることを認めたことになり、同委員会が出す「調査結果」を良いものとして認めざるを得なくなる。
 同委員会には国家安全保衛部という秘密警察が入っているから調査結果に期待できるなどという言説がマスコミに多数出ている状況は、大変危険が多い。同委員会が行う彼らの言うところの「科学的かつ客観的な調査」に過度の期待をしてしまい、結果として同委員会が出してくる調査結果の日本側での検証がおろそかになってしまうおそれがある。
 また、宋日昊大使は、「日本側から拉致被害者情報を提供してほしい」と露骨に語っていた。それをしてしまうと、同委員会の調査が事実上の日朝共同調査になってしまい、結果的に日本も責任を持たされる危険が出る。
 第2に、特別調査委員会では拉致被害者以外に、戦後の混乱期に北朝鮮で亡くなった日本人の墓地と遺骨に関する調査、戦前から継続して北朝鮮に住む日本人とその子孫や帰国した在日朝鮮人に同伴されて北朝鮮に入った日本人妻らの調査も並行して行うこととされた。日本代表団が平壌を訪問した際、日本人墓地を見せられるとか、残留日本人と面会させられるなどして、拉致以外の問題で北朝鮮が人道的なことをしているとアピールされ、その見返りを求められる危険がある。
2.インテリジェンスの欠陥を露呈した訪朝結果
 安倍晋三総理は家族会などの以上の指摘を受けながらも、拉致問題を最優先で解決するという日本政府の強い意思を北朝鮮最高指導部に伝えるため、という目的を掲げて、10月27日から30日まで訪朝団を平壌に送った。結果をみると、先の2つの危険のうち、第2の北朝鮮に他の問題でのアピールを許すことはほぼ抑止できた。訪朝団は当初から、「視察や面会は一切しない。ただ、特別調査委員会の幹部と話し合うだけだ」と線を区切っていた。その結果、遺骨調査や墓参の日本の国家事業化などについて実務的な話はしたようだが、それを以って北朝鮮がアピールすることはなかった。
 一方、特別調査委員会への過度の評価については、一定程度、北朝鮮が狙いを成功させた。当初日本側は、国家安全保衛部の副部長である同委員会委員長徐大河に会えるかどうかが焦点だというような、雰囲気を作った。あたかも、日本側団長の外務省局長より徐委員長の方が格上だが、日本が徐委員長との面会を強く求めているなどという報道が多かった。だから、徐委員長が建物の外まで出てきて伊原局長らを迎えたことで、北朝鮮は誠意を見せたと大きく報じられた。しかし、これは北朝鮮の政治宣伝だった。徐委員長は軍服を着ていたので彼の階級が星一つの少将(西側の軍でいう准将)だったことが判明した。

 私が保衛部出身の複数の脱北者らから得た情報などによると、現在の保衛部幹部の階級は、
●部長 金元弘 星四つの大将(党政治局委員)、
●ナンバー2 政治局長金彰燮 星三つの上将(党政治局委員候補)、
●第1副部長(3人いるといわれる)星二つの中将、
●副部長(かなりの人数)星一つの少将だという。
証言者によっては、副部長は中将か少将という。
 日本の中央官庁の役職からすると、徐大河副部長は局長以下、局審議官か課長クラスと言える。外務省の局長は通常、星三つ、北朝鮮の階級で上将(西側の中将)と同格とされる。その点で、局長より2つランクが低い者が委員長をしている同委員会に過度の期待をかける日本政府とマスコミのインテリジェンス能力のなさが露呈した一幕だった。
3.被害者殺害計画(?)の留保
 それではなぜ、北朝鮮は一度約束した第1回目の拉致調査の報告を延期し続けているのか。私のところに北朝鮮内部から届いた複数の情報を総合すると二つの理由がある。大ざっぱに言うと、今年になり金正恩政権が安倍政権に接近してきたのは深刻な外貨不足を解決するため、日本の制裁を解除させようという狙いからだった。過去、朝鮮総連から年間千億円以上の送金を受け取っていた北朝鮮は、第1次安倍政権以降とられた厳しい制裁と取り締まりでそれがほぼゼロになり、このままでは総連そのものが崩壊することに危機感を募られていた。
 しかし、横田めぐみさんや田口八重子さんらは北朝鮮の工作機関や権力中枢部の最高機密を知っているため、簡単に帰国させることができない。だからこそ、2002年に拉致を認めた際には、彼女らは生きているのに、「死亡」と通報された。秘密暴露をせず拉致問題を解決する方策として、北朝鮮の工作機関は数年前から生きている被害者を殺害して遺骨にし、死亡の証拠として提出するという恐ろしい虐殺計画を準備していた。
 日本の技術では遺骨から死亡時期も一定程度判明するのだが、彼らはある温度帯で骨を焼くと、DNAは抽出されて誰の骨かは分かるが死亡時期は分からないという技術情報を入手し、実験まで行っていた。彼らは9月にその計画を実行しようと当初考えていたのだ。しかし、その情報を入手した救う会は、めぐみさんらの確実な生存情報を政府はもちろん、民間の家族会・救う会も持っているから、本物の遺骨が出てきたら「殺したのだ」と叫ぶぞ、と公開の席で繰り返し発信した。北朝鮮内部でも、生存者を殺したことが発覚すると大変なダメージがくるとして殺害計画に反対する権力中枢勢力が出てきて、計画は留保された。それが9月に結果が出てこなかった第1の理由だ。
4.国連決議阻止に全ての外交力量を集中
 第2の理由は、国連の動きだ。今年3月、国連人権理事会は北朝鮮人権調査委員会の報告書を受けて、北朝鮮による人権弾圧は人道に対する罪であり、責任者を国際刑事裁判所に訴追すべきだとする決議を採択した。それを受けて、いま国連総会で北朝鮮人権決議が審議されている。EUと日本が提案国になって出されている草案には、「安保理は北朝鮮人権問題を国際刑事裁判所に訴追すべき」「人権侵害の責任者を明らかにすべき」という2項目が含まれている。11月18日に、同決議が国連第3委員会で採択され、12月の総会でも採択される見通しとなった。これは、金正恩を国際刑事裁判所に訴追することを意味するので、北朝鮮では9月以降、全ての外交力量を動員してそれを防げという指令が下ったという。
 その結果、「9月にめぐみさん死亡通報を行うと、人権侵害への国際的非難がより強まるので報告を先送りするが、誠実に拉致問題について調査しているふりをせよ」という方針が下ったという。今回、日本代表を平壌に呼んで、特別調査委員会を見せたのもその一環だった。だから、わざわざ英語を併記した委員会の看板が新しく準備されていたのだ。
9月7日〜 姜錫柱書記(政治局員)欧州を歴訪。ドイツ、ベルギー、スイス、イタリア、EU本部
9月 15年ぶりに国連総会で李洙?外相が演説「米国が我々の人権問題に対してとやかく言うのは偽善」「人権問題を特定の国の制度の転覆に使おうとする、あらゆる試みと行為に反対する」「我々を敵対視しない国々と人権対話と協力をしていく用意がある」
9月13日 「朝鮮人権研究協会」が150頁にのぼる人権報告書を発表
10月7日 国連本部で、人権状況説明会開催。報告書と脱北人権活動家申東赫氏の実父に息子批判をさせたDVDを配布
10月21日〜 金英南最高人民会議常任委員長がアフリカ歴訪。スーダン共和国、コンゴ共和国、ウガンダ
11月7,8日 クラッパー米国家情報長官訪朝、抑留米人2人釈放
11月17日〜 崔龍海常務委員ロシア訪問
5.見通し
 今年の国連での議論が終わる年内は動かないだろう。年明けのある時期に北朝鮮は1回目の回答をしてくる。たぶんそのときも、秘密を知るめぐみさんらは死んだとされて、新たに捏造された証拠や証人なるものが出てくるだろう。そのとき、政府とわれわれ民間がこれまで収集した生存情報を活用してそのウソを暴くことに成功すれば、日本から彼らが得たいと思っているものがある以上、金正恩政権がめぐみさんたちを返すという決断を下す可能性も十分ある。
 まだ、戦いは終わっていない。制裁と国際連携で北朝鮮を追い込み、被害者を助け出すという安倍政権とわれわれの戦略は大枠では成功している。これからが最後の勝負だ。


  
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