第34回「平壌で大規模な反体制ビラ散布2」
みなさんごきげんよう。救う会テレビ、救う会全国協議会会長西岡力です。今日で第34回になります。令和3年5月29日に収録しました。
今日のタイトルは、「平壌で反体制ビラ散布2」と題してお送りいたします。
ちょっとした話題になっていまして、平壌で大規模な反体制ビラ散布があったとお伝えし、色々な所から問い合わせももらいました。
また韓国では今、この情報で関係者の間で本当なのかという確認作業が進んでいまして、いくつかのメディアが報道しています。
また私が「産経新聞」のコラムを先週書いたところ、ある国会議員の先生がビラ散布はなかったということを、何かに書いていらっしゃると聞きました。私はまだ見ていないんですけど、間接的に聞きました。
そんなことがあって、またいくつかの新しい情報を入手しましたので、そのことについてお伝えしたいと思います。
まず、前回お伝えした情報を整理しておきます。5月19日に私が入手した情報だったんですけども、「5月15日頃に平壌の寺洞区域で反体制ビラが大規模にまかれた。三日間かけて安全省(一般警察)と保衛省(政治警察)が拾い集めた。数万あるいは数十万枚あったと推定されています。これは大規模で今までなかった規模です。この情報は枚数については誇張されていたかもしれない」。
「韓国の脱北者が飛ばしたビラではなかった。韓国のビラは防水加工されているが、今回まかれたビラは普通のA4用紙だった。紙質が北朝鮮内部で使われている者に比べてよいものだったので、外国(中国)から持ち込まれたと推定されている」。
平壌で大規模にビラをまくことができたのだから、個人ではなくかなりの人間が加担している反体制組織の仕業とみられている。金正恩が激怒して全員捕まえろと保衛省に命令し、保衛省は非常状態に入っている。ビラの内容は次の通りだった。「我々の代で金氏家門の3代世襲を断ち切ろう。改革開放だけが生きる道だ」。
同じ5月19日にの夜ですね、姜哲煥(カン・チョルファン)という人権活動家、この人自身も政治犯収容所に入れられて、出てきて逃げてきて、最初に政治犯収容所のことを告発した人から聞いたことです。
「平壌の大学生が高層マンションの屋上から夜通しでビラをまいた。まかれたビラは大変な半径まで散らされ、平壌市のいろいろなところまで飛んでいった。ビラの内容は過激だった」。
「いまや3代世襲、金正恩政権を終わらせなければならない。人民たちはだまされている。世界は食糧問題を解決した。特にアジアでは唯一飢えで苦しんでいるのは朝鮮だけだ。いつまで3代世襲金正恩政権にだまされるのか。いまこそ人民が決起してこのひどい朝鮮の状況を終わらせなければならない」という内容だったそうです。ここまで前回お伝えしました。
◆アメリカの「自由アジア放送」も報道
調べてみますと、私は姜哲煥氏と同じ情報を入手していたのですが、その2日前の5月17日に、「自由アジア放送」というアメリカの対北戦略放送で、「ボイス オブ アメリカ」と「自由アジア放送」の2つがあります。アメリカ政府が予算を付けてやっていますので政府系の団体と言えると思います。そこがですね、ソウル発で、「北当局、平壌で出所不明のビラ発見され当惑」という記事を書いています。前回の救う会テレビをやった時点ではこの記事を知らなかったのですが、後で気づきました。この記事は日本語版がないので日本ではほとんど知られていません。
この記事の要点を紹介します。
「複数の消息通、住民の情報だとしてですね、5月10日、寺洞区域で大規模な反体制ビラ散布があった」。私も寺洞区域ということでこれは一致します。「協同農場の畑や一部住民住宅の屋根などが真っ白になるほど大量にまかれた」。ここでも、真っ白、大量と言っています。
「安全省や近隣の軍人が動員され3日かけて拾った」。3日というのも一致します。
「朝鮮の粗悪な紙に印刷されていた」。私は朝鮮の紙ではなかったということで、ここは違う。「韓国から風船で送られる防水加工されたビラではなかった」は一致しています。
中身は、「金正恩時代は終わった」、「金正恩のために働かず自分自身のために働け」、「我々は開放してこそ豊かになれる」、「金与正は悪種だ」と。印刷されていたということで、「全国の印刷施設を取り調べている」。
「散発的な反体制落書き事件は何回かあったがこのような大規模ビラ散布は異例的」と保衛省はみている、と「自由アジア放送」は言っています。またですね、
「5月、黄海北道の海岸地域でも反体制ビラがまかれた。」、「4月、黄海北道沙里院市」、これは海岸地域ではないですが、「とその隣接地域でもビラがまかれた。高級な紙に印刷され防水されていた」。この4月のビラはもしかしたら韓国からのビラかもしれない。
こういうことがあり、その後康明道(カン・ミョンド)さんという人権活動家でユーチューバーが、「自由アジア放送」の記事を受けて、5月23日に放送しました。「17日の記事を読んで、自分の情報源に確認した」。彼によると、「確かにビラ散布はあった」、「但し記事が書いたほどの大規模な量のビラ散布ではなかった。数千枚だった」
「印刷されていた。場所は寺洞区域だ」、と。私は前回のテレビで、その「寺洞区域の住宅建設現場に金正恩が起工式に来たことを紹介しましたが、康明道さんも、「その通りだ。建設現場でまかれた」、「建設中のアパートの屋上からまいた」と。
建設に動員されているのは、「各道から選抜された建設旅団が工事にあたっている、食料も各地から持参。劣悪な環境で不満高い」。だから地方から送られてきた建設労働者が、地方でビラを印刷して持ち込んでまいたと見られている」と彼は言っています。
中身は、「我々は奴隷ではない」、「金正恩が国を壊している」、「金与正は悪魔だ」、「労働党は母なる党ではない」、「建設現場にいた咸鏡北道、咸鏡南道、両江道の何人かの幹部が姿を消した」。「秘密に取り調べを受けていると推測される」と報道しました。
◆建設途中のマンションの屋上から手書きビラを300枚まいた
それで私も色々な情報源に当たってみたのですが、5月27日になって、情報1の情報源とは別の情報源から次の情報を入手しました。その人は平壌に複数の情報源を持っている人です。やはり康明道さんと同じように、このような報道があったので、「自分の平壌市内の複数の情報源に確認してみた」そうです。その結果、「だれもビラそのものを見た者はいなかった。しかし平壌市内でビラ事件の噂が急拡散していることが分かった。私の情報源は治安関係者から聞いた次の話が一番信ぴょう性があると判断した。それを紹介します。
「日時は5月初め」、自由アジア放送は5月17日に10日と書いた、「深夜だ」、やはり「場所は寺洞区域の住宅建設現場」。「まいた場所は建設途中の12階建てのマンションの屋上」と具体的です。そして複数のマンションではなく、「1か所からまいた」。それは落ちていた場所から推測した、と。
「まかれたビラは300枚」と特定しています。治安機関から聞いているから具体的なんだと思います。屋上の中心から300枚まかれたということではないか。その治安機関は、「組織ではなく個人の犯行かと見ている」、「反体制団体の仕業とは見ていない」。その理由は、「ビラは北朝鮮のA4用紙で防水加工されていない。韓国から飛ばされた風船ビラではない」。私の、きれいな紙というのはちょっと間違っていたようです。
そして今まで印刷されていたという情報が多かったのですが、この情報では、「手書きだった」。手紙だと犯人を追跡するため筆跡を改めますが、その結果は「一人の筆跡だった」と。一人の筆跡だったから、逆に団体の仕業ではないのではないかということです。
内容についてはその人は具体的には言わなかったのですが、その人はこういう言い方をしました。「5つの主題がった。2つは金正恩への悪口、2つは与正への悪口、1つは体制批判で、「世界で一番貧しい朝鮮」と書いていたそうです。まあ内容については大体一致してるわけですね。
金正恩と金与正(キム・ヨジョン)について批判していて、あと体制批判をしている。
これらの情報を総合するとですね、5月の10日ぐらいに平壌の寺洞区域で、金正恩が肝いりで始めた住宅建設現場で、体制批判ビラが数百枚も開かれたという事件があったことは間違いないと思います。
一枚、二枚を手書きで書くことはよくあるのですが、手書きで300枚書くことは大変です。これは執念ですね。筆跡を探すわけですから、もう逃げているかもしれないですね。本当に、今の体制ではダメだとい言う強い意志を持ったインテリの人がいるということです。
◆幹部も家族分の食料配給なし
前回のちょっと話ましたが、今経済制裁が大変効いていて、体制が揺らいでいる訳ですが、1995年以降に300万人が餓死した苦難の行軍時代と今を比べるとですね、庶民はそれでもこの間ずっと配給なしで食べてきたのですが、一番苦しいのは配給が亡くなった幹部たちで、その幹部たちが中国式の改革開放が来れば食えるのではないかと思っている事です。
最近の平壌の配給事情について内部の人から聞きました。
2020年4月から12月までに平壌市の大部分の地域で主食配給止まりました。これは今も続いているのですが、平壌には19区域と4郡があります。そのうち中心部の6区域、中区域、普通江(ポトンガン)区域、牡丹峰(モランボン)区域、船橋(ソンギョ)区域、大同江(テドンガン)区域、万景台(マンギョンデ)区域だけで、去年4月以降も主食配給が続いています。
それ以外の13区域、4郡では4月から6月まで配給が止まり、7月に半月から一かか月分が出て、8月からまた止まっている。
2021年に入り中心部6区域でも一般住民の主食配給が止まりました。働いている機関単位で(その人の分だけの)主食配給が出る。出る機関は、中央党、人民軍、保衛省、安全省、政府機関の中の力の強い省です。人民軍の一般兵士ではなく、将軍たちです。6区域の中でも、勤めている人だけ出ます。本人分だけ出るのか、家族分も出るのか確認したのですが、本人分だけです。ここに住めるのは主要機関の幹部しかいないのですが、それでも家族会の分がなくなるわけですから、結果として全体の3分の1くらいしか出ていない。
それから、2021年3月から、それらの幹部にだけ与えられていた主食以外の物資支給(「供給」と呼ぶ)が止まった。配給は主食で、供給はそれ以外の物資です。しかしこの3月から中央党課長までで止まっている。食用油、小麦粉、魚、肉、醤油等食料や靴、石けん、医療品なども全て止まっています。
平壌に物資がないんですね。中朝貿易が停止している影響です。外交官も逃げ出していますね。外交官は米よりもパンを食べたいわけです。でもパンは売っていないから小麦粉で自分で焼くのですが、その小麦粉がない。キロ当たり9,000ウォンだったのが、今25,000ウォンくらい。3倍近く上がっている。それほど物がないからです。それでロシア大使館の外交官が逃げました。幹部らの生活難が深刻化してるということです。
金正恩が、「苦難の行軍は幹部から」ということを言ったという話をしましたけど、幹部はインテリで、改革開放をすれば食えるわけです。しかし、配給も来なくなっている。思想で、自力更生で乗り切れと言っていますが、どうするんだというのが不満の原因で、思い込んだ人が命がけで、誰も家族も見ないところで300枚のビラを手書きで書いて、まいたという事件が起きたことのようであります。
◆制裁は効いている、金正恩体制は追い込まれている
もちろんその現場を自由に取材ができてですね、あるいは治安機関が記者会見して公表するわけでありませんから、情報が伝達される過程で様々な歪みが出てきたりするので、今の段階で私が一番信憑性があると思うのがこれだということですけども、これだけ複数の情報が出てきていますから、反体制ビラ事件があったことは間違いない。
配給の情報については確証がありませんから。一人家の配給がそなったということじゃないですから、これも大枠において間違ってない。制裁は効いています。そして金正恩体制は本当に追い込まれています。
この状況を被害者救出にどう活用するのか。問われているのはこの1点だと思います。
今日は救う会テレビ第34回、「平壌で反体制ビラ散布2」と題してお送りしました。ありがとうございました。
以上