救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

北朝鮮の食糧農業2018/19



3.なぜ北朝鮮は多めの生産量を報告するのか

 次に、なぜ北朝鮮は国連機関に多めの生産量を報告するのかについて考えたい。
◆人口も多めに報告
 国連機関は2008年12月の報告で北朝鮮の人口について下記表4を出した。1995年に支援に入った時、北朝鮮当局から1993年末の人口が2,121.3万人であったと聞いた。その後の北朝鮮の人口増加率は高すぎると、人口増加率を0.7%として食糧需要を計算してきた。しかし、この1993年末の人口がそもそも怪しかったのではないか。 国連機関の毎年の支援では、人口増加率が0.7%だったのは1995年だけで、「苦難の行軍」で餓死が多発した1995?1998年の増加率は表5の通り極めて高く、おそらく北朝鮮当局から聞いた人口をそのまま報告したものと思われる。これは90年代末に350万人が餓死したという外部の報道を打ち消そうとしたためであろう。
 なお1996年の人口は報告されていない。北朝鮮政府は、餓死者の多発を隠そうとして、異常な人口増加率を出し、国連機関がこれをある程度受け入れてきたということであろう。 さらに、北朝鮮統計局は、人口センサス調査の結果2008年10月1日現在 の人口は2,390万人であったと政府に報告し、それが国連機関に報告された。そして1993年以降の人口増加率は0.85%を超えたと報告した。しかし国連機関はそれを疑い、0.7%を採用し続けた。
 さらに、2010年11月のレポートでは、北朝鮮政府が2008年に実施した人口センサスによると2008年10月1日の人口は、24,052,231人だったとさらに多い人口増加率で報告した。そして国連機関は2008年12月に2,390万人と報告した数値を、2010年11月に2405万人に訂正した。
 なお、2008年の人口センサスというのは、国連機関の国連人口基金(UNFPA)が人口一斉調査(センサス)を行った数値とされているが、実際は北朝鮮政府が「調査」なるものを行ったとして報告しただけものである。センサスに必要な資金は韓国政府が400万ドル出したが「調査」はせず、調査費は北朝鮮に取られてしまったと推測されている。なぜなら人口調査などせずに担当者が適当な数値
を出しただけだからである。
 FAOやWFPも、国連人口基金(UNFPA)が調査したものという建前なので、受入れざるをえなかったという言い訳ができた。
 国際社会では、1995年から1998年まで北朝鮮で飢餓が大量に発生し、その数は300?350万人とする見方が多かった。しかし、北朝鮮は餓死者はわずかで、人口は増加したと主張するため、増加率0.85%という途方もない数値を出したのである。
 ところが人口センサス後の2010年、北朝鮮は、今後は人口増加率を0.6%に下げてほしいと国連機関に要請した。北朝鮮側から、「1999年から2005年まで、GNPが1%づつ、ほぼ人口増加率に見合う形で回復してきたが、2006年マイナス1.1%、2007年マイナス2.3%、2008年3.7%、2009年マイナス0.9%と4年の内3年はマイナス成長だった」と報告された。その理由は「主に農業がGDPを牽引している国なので今後は0.6%にしたい」という説明が北朝鮮からあったと報告している。
 そして、国連機関の報告書では、「北朝鮮統計局が今後の人口増加率として0.6%を使うと言ったので、今後はこの増加率にしてほしいと農業省が言ってきた」とさらっと書いている。「この情報を受けて2011年の年央値は2,442.7万人とした」と。GNPがマイナスだったから人口増加率も減らすというのは、かなり奇妙な言い訳ではないか。
 以下は報告されていないが、増加率0.6%で計算すると、2008年10月1日の人口、24,052,231人から7か月後の2009年5月1日(農業年度年央値)の人口は24,136,414人に、2010年5月1日は24,281,232人に、そして2011年5月1日は24,426,920人になる。
 国連機関は北朝鮮の言うがままの人口に基づいて需要量を決めて支援し、また2010年には人口センサスなるものの結果を受け入れ、さらに0.6%とした。実態とあまりにも乖離してしまったので訂正したものと思われる。
 2015年からはさらに0.55%にしてほしいと要請され、それらをすべて受け入れて、北朝鮮の必要に合わせて人口が決まり、需要量が決められたということだ(表6)。もうこの頃は、無理に人口を増やしても国際社会の人道支援が減少していたので、増やす意味もあまりなかったと言えよう。

 国連人権高等弁務官室が2002年10月22日に発表した報告書によると、1991年74.5歳だった北朝鮮住民の平均寿命が、98年には66.8歳と大幅に低下したという(韓国「中央日報」02.10.24)。その主な原因は慢性的な食糧難とされる。
 世界銀行が各種資料から推測した北朝鮮の平均寿命は、1990年の70歳から2005年の67歳まで、15年間に3歳低下したとされる(世銀WDI Online 08.05.29)。
 平均寿命の低下度には差があるが、90年代後半に低下し続けている点では両者とも一致している。これらのデータを見ても、人口が増加し続けたという北朝鮮の報告は異常である。
 「国連人口基金UNFPA - 世界人口白書2007年度版」では、2007年の北朝鮮の平均寿命は66歳とし、北朝鮮の平均寿命がさらに減少し続けていることを示している。平均寿命が減少し続けている時に、人口が0.85%も増加したという北朝鮮の報告は異常な報告である。北朝鮮の諸統計はもともと信頼できないものであるが、人口統計はその典型である。
 なお、飢餓の時期の「苦難の行軍」という表現は1996年1月1日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の新年共同社説で使われたもので、人民向けには食糧不足、大量餓死の時代を耐え、自力更生するよう呼びかけたわけである。
 北朝鮮は国連機関に対し、2005、2006、2007、2009年は食糧生産量を報告していない。この時期の北朝鮮は核・ミサイル実験をしており、国際社会が北朝鮮に反発し、支援への関心は低下していた。北朝鮮も国連機関やNGOに撤退を求めていた。2005年と2007年の人口は後の報告で確認した。
 不思議なことに、2019年の人口は2,570万人と報告された。これは人口増加率1.66%になる。なぜこんな異様な数値を出したのか分からないが、需要を意図的に増やそうとしたとしか思えない。
 ところが翌年度、これも不思議なことに、昨年は需要の増加率が0だったとした。このミスを修正した可能性もあるが、それにしても多すぎる。人口増加率0.55%ならば、その分増やせばいいのに、年ごとに増加率が異なるのはあまりに不自然である。
 なお、国連の世界人口推計報告書の2008年版による2005-2010年の中位推計の年増加率では北朝鮮の人口増加率は0.39%となっている。 国連機関は、2018/19年度に、一人当たりの平均消費量約175 kgとして、食用の総需要を451.3万トンとしている。しかし、人口増加率が引き続き0.55%なら、2019年の人口は2542万人で、食用の総需要は444.8万トンになり、約6.5万トンの水増しをしたことになる。
◆90年代後半300万人が餓死
 1997年に北朝鮮に亡命した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党元書記は、「1996年11月に大量餓死が心配になって、腹心の部下を労働党組織指導部に送って尋ねさせたところ、1995年に50万人、1996年11月までに100万人死んだ。このままなら97年も100万人、98年までに300万人死ぬだろうという結果を得た」と証言している。
 次のような米国、中国の報告もある。
 「中国側の調査によれば1995年以後の飢饉のための死亡者は北朝鮮全体人口の10?15%に相当する200万?300万人におよぶものと思われる(在韓米大使館が1998年8月国務省に提出した秘密報告書)」。
 「1995年からの凶作により北朝鮮人口が300万人減少したという話は信じるに足る(北京にある中国政府傘下研究機関が作成した秘密報告書、1999年)」。
  「(1)わが民族助け合い仏教運動本部『1694名面談調査』と、(2)ジョンス・ホプキンス大学「難民及び災害公衆保健研究所」の440人調査では、95年から98年の4年間の死亡者推計は(1)が470万人、(2)が225万人となる」(東京財団研究報告書2004-16「朝鮮半島情勢の中長期展望と日本(西岡力)」。
 また、北朝鮮は事実上の飢餓が始まった1994年に徴兵検査基準を変更している。「身長150cm以上、体重48kg以上」を、「身長148cm以上、体重43kg以上」に下げた。さらに、飢餓の時期に年少期を過ごした子どもたちが、徴兵年令である17歳に達した2008年春の徴兵からは、その基準も撤廃され、健康であればすべての若者を徴兵対象者にすると変更した。
 基準が変更されたのは食糧不足と青少年の成長不足のためである。著しく人口が減少した世代の兵士充足率が急減していることが分かる。また、北朝鮮の徴兵検査基準で男性の17歳の兵士の最低身長が148cmになったことも、北朝鮮で食糧不足が続いていたこと、北朝鮮の人口統計が虚偽であることを裏付ける傍証の一つである。
 北朝鮮では新生児の体重がほとんど2kg前後とされ、妊産婦の栄養状態が悪く、新生児の死亡率も高い。実は、北朝鮮における食糧不足は今に始まったことではなく、「金氏政権」成立以降ずっと続いているのである。金日成の公約「白いごはんと肉のスープ」は未だに実現せず、金正日時代にはさらに悲惨な状況となった。北朝鮮の人々の身長は、同じ遺伝子を持つ韓国人より約12cm以上低いとされ、体重も太っているのはあのファミリーくらいである。
 米CIAなど5つの情報機関が共同で作成し、米国家情報会議のウェブサイトに掲載された「世界保健の戦略的示唆点」では、「北朝鮮では1990年代に広範囲に及ぶ飢餓が発生してから深刻な栄養不足状態が続いており、児童の半数以上が成長障害か低体重、青年層の3分の2に栄養失調や貧血がみられる」とし、「2009年から2013年の潜在的徴集対象の17?29%が知的能力に欠け軍生活不適格者となる」と推定、「北朝鮮の軍人らは自身に対する食糧配給がきちんと行われても栄養失調にあえぐ家族を心配するようになり、これが忠誠心の低下につながりかねない」と報告している(連合ニュース09.01.22)。
 なお、近年の脱北者によると、もはや独裁者に忠誠心を持つ人民はほとんどおらず、自分と家族がいかに生き延びるかしか考えていない、とのことである。これは幹部たちも同じとのことである。
◆今、金正恩の幹部たちの家族が一番飢えている
 実は、北朝鮮が人口を水増し報告するにはそれなりの伝統的な理由がある。これは、食糧生産量の水増しでも同様である。北朝鮮の各農場では、まず、命令された生産目標は絶対に達成されなければならない。そのため、生産量が低くても、大水害などよほどの理由がない限り、達成したと報告しなければ農場の幹部の責任になる。そして、上部組織に報告すると、そこでまた水増しされ、食糧が横取りされる。最終的には実態とはかなりかけ離れた報告となってしまう。
 水増しが黙認される背景には、多くの収穫があったことを前提に、つまりみかけの生産量を前提に特権階級にまず配給すると、一般人民等に残された食糧が極端に少なくなるのである。そして実際の収穫が極端に少なければ人民たちの中で餓死が発生するという仕組みである。
 人口数では、大量の餓死や行方不明者があれば、地域幹部が処罰される理由になりかねないため、餓死者や行方不明者も生存者に含めてしまう。また、人口を多めにしておけば、みなし人口分の配給を地方幹部が横取りできる。
 権力者の農民に対する収奪は李王朝時代も、その前の時代も行われていたが、「金王朝」時代の収奪が最も過酷である。権力者によるこのような収奪に対して、現代の北朝鮮の農民たちは、乾燥不足のまま計測して収穫量を水増しし、土地面積をごまかし、隠し畑を作り、自留地に柿の木やさつま芋を植え、自留地の作物に肥料を多く与える、などの苦しい対応で生き延びてきた。朝鮮人民の歴史は、搾取と抵抗の歴史ともいえる。
 このような朝鮮の悪しき伝統が、結果として国際支援を受ける際にも有利に働いた。まず、人口を多めに公表すれば、一人当たりの配給量が少なく見え、国連機関が危機をアピールしやすい。逆に、食糧生産を多めに報告することは、北朝鮮にとってマイナス効果になりかねないが、国連機関や西側社会から見ればそれでも一人当たりの配給量は少なすぎる数値であり、水増しされた人口を基に不足量をアピールしてくれるので、当面の障害にはならなかったのである。
 北朝鮮は人口統計を操作し、食糧不足を多めにすることで国際社会から食糧支援を得てきたが、もっと本質的な問題もある。
 筆者は、第1回の「1993年人口調査」が既に虚偽の数値と見ているが、それぞれの地域の管理責任者は、飢餓の時期でも一定の人口があるように装わなければ、管理責任を問われたのではないか。下記のような90年代後半より後の報告もある。
 「最近、北朝鮮の一部の地域で餓死者が発生していることと関連し、朝鮮労働党の中央党が市場の統制を撤回し、餓死者が発生した場合、餓死者が所属している当該機関の関係者も処罰するという指示を下したと伝えられた」(「デーリーNK 」2008.05.29)。「関係者」にとって、餓死を報告できないことは、死亡者を生存者にすることで、死亡者の分の食糧を横取りできることになる。
 北朝鮮の人民の食糧に関する人権侵害はまさに地獄のような状況で、「金氏政権」は史上最悪の人権侵害政権である。「1994年金日成死亡直後から配給がほぼ全面的に止まり人口の15%、300万人が餓死するに至った。その後も配給は復活せず党や軍の治安機関幹部らを除くとすべての住民が政権の統制の外で『チャンサ(商売)』を通じて生計を維持している」(同上西岡力論文)ということで、北朝鮮の人口統計は少なくとも300万人の水増しである。特に金正日政権で餓死者が多発したが、餓死は今も続いている。
 ところがこんな状況も最近はあるらしい。90年代後半に配給が途絶えた人民たちは、みな市場での取引きで食べるようになった。それは自留地での野菜や家畜の生産物の余剰だけでなく、最近は小さな家内工業も行われているという。金聖玟(キム・ソンミン)・自由北朝鮮放送代表(脱北者)によると、衣類、タバコだけでなく、最近は麻薬まで作っているそうである。お金があれば運送業にも手を出しており、配給制度の復活は望んでいないという。
 「食糧配給制が復活する場合、配給の3大要素という、政治活動証明書、軍事活動証明書、所属した行政単位が発行する証明書を持っていくと配給がもらえるのですが、政治活動なんか参加したくないし、自分で食べていけるから配給の復活は望んでいないんです。
 さらに今は、軍の兵士や、党や軍の治安機関幹部への配給が極端に少なくなり、一般住民よりも金正恩の幹部たちの家族が一番飢えているとのことです。だからこそ幹部たちの忠誠心もなくなってしまったわけです。
 そうするとどうなるか。彼らが脱北者の家族のところに行って、頭を下げて金をくれという。昔は脱北者の家族に、「お前の家族は南に行っただろう」(と締め上げてていた)が、最近は「南に行かれましたよね。最近送金はなかったですか」と聞く。そういう現象が起きている」。
 今北朝鮮に観光旅行する中国人が年間120万人になっているが、「料理がおいしい」との評判だそうである。北朝鮮でも最上級の食材を提供していると見られる。国際社会から人道支援をもらいながら、おいしい料理を120万人に出しているということだ。それだけの食糧があるのなら、国連機関は困っている人に食べさせるよう働きかけるべきではないか。


  
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